この記事の内容
「建設業 新規事業 例」で検索して出てくるのは、たいてい他社が何をやったかの一覧です。ただ、他社の事例は、その会社の人・設備・取引先がそろっていたから成立した結果であって、そのまま持ち帰っても自社では動きません。必要なのは例そのものより、例を生んだ型のほうです。この記事では、建設業が新規事業を考えるときによく効く4つの型と、自社に当てはめる順番を整理します。特定の会社名を並べるのではなく、あなたの現場にある材料から考えられる形にしています。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
建設業の新規事業は、例を集めるほど決まらなくなる
新規事業の検討を始めると、まず事例集めから入る会社が多くあります。けれど事例は数を集めるほど選べなくなります。どれも成功例として書かれているため、優劣がつかないからです。比較の軸がないまま並べても、最後は「うちにもできそうか」という感触だけで決めることになります。
もうひとつの問題は、事例が結果だけを語っていることです。撤退した案、途中で形を変えた案は表に出てきません。表に出ている事例は、うまくいった一部だけが残った結果であるという前提で読む必要があります。
建設業には、他の業種にはない強みがあります。現場という実物の持ち場があり、職人という技能があり、元請・協力会社・施主という既存の関係があります。新規事業の材料は、事例集の中ではなく、この3つの中にあります。以下の4つの型は、その材料の使い方を分けたものです。
型1|自社の技術を、別の市場に持っていく
いちばん取り組みやすいのが、すでに持っている技術や設備を、今と違う相手に売る形です。施工技術そのものは変えず、届ける先を変えます。足場や重機、測量、内装仕上げ、電気設備といった技能は、建設の元請以外にも必要とされる場面があります。
この型の要点は、技術を変えないぶん、変えるのは「誰に」だけに絞ることです。技術も相手も同時に変えると、うまくいかなかったときにどちらが原因か分かりません。まず相手だけを変え、反応を見てから中身を調整します。
- 今の技術を、社内の言葉ではなく「何が解決できるか」で言い換える
- その解決を必要としている業種を3つ書き出す
- 3つのうち、すでに接点がある業種から当たる
- 断られた理由を記録し、技術の説明ではなく相手の状況を集める
接点がある相手から当たるのは、時間の節約のためです。新しい市場をゼロから開拓するより、既存の取引先の「本業以外の困りごと」を聞くほうが、早く答えが出ます。
型2|現場の困りごとを、そのまま商品にする
2つめは、自社が毎日やっている面倒な作業を、同じ困りごとを持つ会社に向けて商品にする形です。紙の伝票、手書きの日報、電話とFAXでのやりとり、写真の整理。現場を持つ会社では、こうした作業が業務時間のかなりを占めていることが多くあります。
現場を持つ会社のデジタル化の例として参考になるのが、1952年創業・高田馬場の一番飯店(スタッフ4名)です。紙伝票とトランシーバーで回していたオーダーの運用を、ノーコードのオーダーシステムに置き換えました。ベータ版までは2週間、オーダーにかかる労力は約50%削減(依頼者の体感)で、導入から約2年が経っています。飲食の話ですが、紙と口頭で回っている工程は、業種が変わっても同じ形の困りごとになるという点で、建設業の現場にもそのまま当てはまります。
もう一例が株式会社マックスです。補助金を使ってコーポレートサイト・外国人向け求人サイト・メディアを立ち上げ、通常1週間(最短3日)かかっていた求人更新が30分〜1時間になりました。求人サイトは4か国語に対応しています。人を集める工程そのものを自社で持ち直した例です。
この型で気をつけたいのは、自社で便利になったからといって、そのまま売れるとは限らないことです。自社用に作ったものは自社の癖に合わせて作られています。他社に出すなら、癖の部分を外して、共通して困っている一点だけを残す作業が要ります。
型3|人手不足を「前提」にした仕組みをつくる
3つめは、人が足りないことを解決すべき問題ではなく、変わらない前提として設計に組み込む形です。採用を増やして解決しようとすると、採用コストと教育期間がそのまま新規事業の重さになります。
前提として置くと、考える順番が変わります。「何人必要か」ではなく「何人でも回る形にできるか」から入ることになります。具体的には、作業のうち技能が要る部分と、要らない部分を分けます。技能が要らない部分——記録、連絡、集計、書類——を減らせば、同じ人数で扱える現場の数が増えます。
人手不足を前提にした設計は、新規事業であると同時に本業の利益改善にもなります。ここが建設業のこの型の強いところです。新しい売上が立つ前から、本業側で効果が出ます。だから途中でやめにくく、社内の理解も得やすくなります。
外国人材の受け入れも、この型に入ります。マックスの例のように、受け入れの前段にある求人・情報発信の工程が詰まっていると、人を増やす話が前に進みません。人が足りないときに最初に見るべきなのは、募集の量ではなく、募集を出すまでの手間のほうであることが多いと言えます。
型4|工事の前後(周辺サービス)へ広げる
4つめは、工事そのものではなく、その前後にある仕事へ広げる形です。建設の仕事には必ず前後があります。前には相談・調査・図面・見積、後には引き渡し・点検・修繕・更新があります。前後の工程は、工事本体より単価は小さくても、継続して発生します。
この型の利点は、既存の顧客名簿がそのまま資産になることです。過去に工事をした相手は、その建物を今も使っています。点検や修繕は、新しい顧客を探さずに始められる数少ない新規事業です。
注意点は、周辺サービスは「ついでにやる」と決まって続かないことです。本業が忙しくなると後回しになるからです。担当と発生条件をあらかじめ決めておく必要があります。誰が、いつ、どの顧客に、どうやって声をかけるか。ここを決めないまま始めると、良い案のまま消えます。
4つの型から1つを選ぶ手順
4つとも同時には進められません。選ぶための手順を置いておきます。
- 型ごとに、自社に「すでにあるもの」を書き出す(技術・困りごと・工程・顧客名簿)
- 書き出したときにいちばん具体的に書ける型を選ぶ。書けない型は、今は材料が足りない
- 選んだ型で、最初の相手を1人だけ決める。業種や層ではなく、名前の分かる1社
- その1社に、売る前に聞きに行く。買うかどうかではなく、今どうしているかを聞く
- 聞いた内容で案が変わったら、変えたほうを採る
新規事業は、案の良し悪しより、確かめる順番のほうが結果を分けます。作り込んでから聞くと、直すのに時間がかかります。聞いてから作ると、直す量が減ります。建設業は一度動き出すと止めにくい仕事だからこそ、動き出す前の確認に時間を使う価値があります。
なお、補助金を使って立ち上げる選択肢もありますが、制度・要件・金額は毎年変わります。使う前提で計画を組むより、事業として成立する形を先に決めるほうが安全です。制度の内容と税務の扱いは、必ず最新の公募要領と専門家に確認してください。
よくある質問4選
質問1建設業の新規事業は、社内の誰が担当するのがよいですか。
現場を知っている人と、社外に出られる人の2人組が動きやすいことが多いです。現場だけだと売り方が決まらず、営業だけだと現場の制約を外して設計してしまいます。専任にできない場合でも、判断する人を1人に決めておくと止まりにくくなります。
質問2事例を参考にするのは、まったく意味がないのでしょうか。
意味はあります。ただし読む目的を「真似する対象を探す」から「なぜ成立したかを分解する」に変えてください。誰に売ったか、既存の何を使ったか、最初に確かめたのは何かの3点で読むと、自社に移せる部分が見えます。
質問3小さい会社でも新規事業はできますか。
規模より、すでに持っているものを使えるかどうかで決まります。一番飯店はスタッフ4名で紙の運用を置き換えています。人数が少ない会社ほど、型2や型3のように本業の手間が減る形から入ると、効果が早く見えます。
質問4最初にどれくらいの期間を見ておけばよいですか。
一概には言えませんが、作り込む前に相手に聞く工程を必ず挟むことをおすすめします。ハコブネの1DAYイベントのように、1日で形にして反応を見る進め方もあります。長い計画を立てるより、短く区切って確かめる回数を増やすほうが、結果的に早く進むことが多いです。
この記事で触れた事例の出典
最終更新:2026年9月16日
