この記事の内容
顧客インタビューで持ち帰れるものの質は、質問文でほとんど決まります。同じ相手に同じ30分を使っても、「あったら使いますか」と聞いた30分と、「前回はいつ、どうやって済ませましたか」と聞いた30分では、残るものがまるで違います。未来の意思は当てになりませんが、過去の行動は事実です。 この記事では、そのまま読み上げて使える質問を、困りごとを探す/いまの解決策を知る/お金の話/使ってもらったあとの4場面に分けて20問並べます。あわせて、聞いてはいけない質問の3つの型と、その言い換えもまとめます。進め方そのものは別の記事に譲ります。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
質問を作る前に、確かめたいことを一文にする
質問リストは、確かめたいことが決まっていないと、ただの雑談の目次になります。最初にやるのは、誰の、どんなときの、何を確かめるのかを一文にすることです。「このサービスにニーズがあるか」は一文に見えますが、これでは何を聞けばいいのかが決まりません。
ハコブネが2026年8月23日のハッカソンで作った記録アプリBENLOGは、確かめる仮説を一点に絞っていました。「うんちを育てるためなら、人は毎日トイレを記録するのか」 です。問いが一つに絞れていると、聞くべき質問は自然に決まります。 記録が続くかどうかを確かめたいなら、聞くのは通知でも共有でもなく、前回いつ記録したのか、そのとき何をしていたのかです。
株式会社Walkers代表の渡邊敦司は、公開しているポストで、Who・When・What・Where・How・Whyを埋めると新規事業のコンセプトになると書いています。インタビューの段階で埋めに行くのは、このうちWho・When・Whatの三つです。この三つが空のまま人に会うと、30分話しても、何を判断すればいいのか分からない状態のまま終わります。
場面1 困りごとを探す質問5問
この場面の目的は、相手が困っていることを、こちらから提示せずに見つけることです。困りごとは、聞き出すものではなく、行動の話をしているうちに向こうから出てくるものです。 最初の一問を「直近でいつやったか」にすると、会話が過去の事実の側に固定されます。
- 「直近で〇〇(対象の作業)をしたのは、いつですか?」
- 「そのとき、最初から最後まで何をしたか、順番に教えてください」
- 「その中で、いちばん時間がかかったのはどこですか?」
- 「手が止まった瞬間があれば、そのとき何をしようとしていましたか?」
- 「同じことは、月に何回くらいありますか?」
2問目の「順番に教えてください」が、この5問の中でいちばん効きます。人は、自分が困っていることを要約して話すのが苦手です。「忙しくて」「うまく回っていなくて」で終わってしまう話も、工程を順番にたどってもらうと、どこで詰まっているのかが具体的な作業の名前で出てきます。
出てくる困りごとは、たいてい時間の形をしています。語学学校の台湾トーク(生徒約370名・講師約70名)では、管理業務に月30時間かかっていました。療育支援のOne Companyでは、連絡帳の作成に1日約1時間かかっていました。高田馬場の一番飯店(1952年創業・スタッフ4名)は、紙伝票とトランシーバーでオーダーを回していました。どれも「課題は何ですか」と聞いて出てくる言葉ではなく、一日の作業を順番にたどって初めて出てくる種類の事実です。
5問目の頻度は、最後に必ず聞いてください。深刻に聞こえても年に1回しか起きない困りごとは、お金が動きにくいです。
場面2 いまの解決策を知る質問5問
困りごとが見つかったら、次に確かめるのは、相手がそれを今どうやって済ませているかです。「何も使っていません」という答えは、ほとんど返ってきません。 紙、表計算、チャット、人の記憶、外注、あるいは「そもそもやらない」。必ず何かで代用しています。
- 「いま、それはどうやって済ませていますか?」
- 「そのやり方は、いつから使っていますか。その前は何でしたか?」
- 「切り替えたきっかけは、何でしたか?」
- 「いまのやり方で、諦めていることはありますか?」
- 「代わりになりそうなものを探したことはありますか。何で探して、なぜ使わなかったのですか?」
3問目の「切り替えたきっかけ」は、お金と時間が実際に動いた瞬間そのものです。療育支援のOne Companyが自社専用システムの開発(6ヶ月)に踏み切ったのは、ユーザー数に比例して費用が増える既存システムを使っていたからでした。「困っていたから」ではなく「増えたから」という出来事があります。その形が分かると、自分の事業がどのタイミングで検討されるのかが見えます。
5問目は、自分がどこに並ぶかを知るための質問です。京都大学のKULALIS(約200研究室・約700人の利用想定、年間処理400件、開発6ヶ月)では、4社の見積もりを比べたうえで開発先が決まっています。何で探して何を見て落としたのかが分かると、比較される土俵そのものが見えます。
場面3 お金の話を聞く質問5問
お金の話で聞いてはいけないのは「いくらなら買いますか」です。返ってくるのは相手の想像で、実際の支払いとはほとんど一致しません。聞くのは、すでに起きた支出のほうです。
- 「いま、それにいくら払っていますか。ツール代、外注費、人件費を分けて教えてください」
- 「その支払いを決めたのは、誰ですか?」
- 「この領域で最後に新しくお金を出したのは、いつですか。何に出しましたか?」
- 「新しく買うとしたら、どんな手続きが要りますか?」
- 「もし明日から、いまのやり方が使えなくなったら、代わりに何をしますか?」
2問目は、法人が相手のときに落としやすい質問です。使う人と決める人は、多くの場合で別です。KULALISのように約700人の利用が想定される仕組みでも、決めているのはその700人ではありません。使う人にだけ話を聞いて進めると、使われるのに買われない形になりがちです。
5問目は、価格を聞かずに払う気を測れる数少ない質問です。代わりの案が即座に3つ出てくる相手は、いまの状態にそれほど困っていません。代わりの案がすぐ出てくる相手は、その困りごとにお金を出しません。 逆に、しばらく黙ってから「それは困る」と言う相手は、支払いの候補になります。
場面4 使ってもらったあとに聞く質問5問
何かを渡したあとに聞いてはいけないのは「使いやすかったですか」です。ここでも聞くのは行動です。
- 「最後に触ったのは、いつですか。そのとき何をしましたか?」
- 「最初に開いたとき、どこで迷いましたか?」
- 「途中でやめた瞬間があれば、そのとき何をしようとしていましたか?」
- 「これを使うために、代わりにやめたことはありますか?」
- 「同じ立場の人に説明するとしたら、なんと言いますか。逆に、勧めないとしたらなぜですか?」
4問目は、定着を測る質問です。人の一日は増えないので、新しく何かを使い始めた人は、必ず何かをやめています。やめたものが出てこない場合、まだ日常に入っていないと考えるほうが安全です。一番飯店では、紙伝票とトランシーバーの運用がノーコードのオーダーシステムに置き換わり、オーダーにかかる労力は約50%削減されたと依頼者が話しています(依頼者の体感)。導入から約2年が経っています。何かが置き換わった形になっているかを見ます。
5問目の「なんと言いますか」は、こちらが考えていた価値と、相手が受け取った価値を突き合わせる質問です。サカチムプラスは、当初は検索サイトとしての機能を強化する方向が想定されていました。ところが対話を重ねるなかで、価値があるのは検索ではなく「チーム専用ホームページの質」のほうだという結論になり、方向が変わっています。結果として配色は100種類が実装され、既存のサカチムには164チームが登録しています。自分が考えていた価値と、相手が説明する価値がずれていたら、正しいのは相手のほうです。
聞いてはいけない質問と、その言い換え
避けたい質問は、大きく3つの型に分かれます。どれも、相手が悪気なく嘘をつける形になっているのが共通点です。
1 誘導する質問
「〇〇って、不便じゃないですか?」「こういうの、あったら便利ですよね?」。この形は、相手に同意の選択肢しか渡していません。言い換えるなら、「前回〇〇をしたとき、どこで手が止まりましたか?」 です。不便かどうかを判断するのはこちらで、相手に判断させるものではありません。
2 仮定を聞く質問
「こういうサービスがあったら、使いますか?」「いくらなら買いますか?」。どちらも、まだ存在しないものについての想像を聞いています。言い換えは、「いま同じことを、どうやって済ませていますか。直近でやったのはいつですか?」、金額なら 「いま、それにいくら払っていますか?」 です。
3 機能の可否を聞く質問
「この機能は、あったほうがいいですか?」。ほぼ全部に「あったほうがいい」と返ってきます。機能は、あって困るものではないからです。言い換えは、「その機能が無かったとき、代わりに何をしましたか?」。代わりに何もしていないなら、その機能は要りません。
あわせて、「どう思いますか」も避けます。返ってくるのは感想で、判断の材料になりません。「いいと思います」は、断られていないだけの状態です。
答えが浅いところで止まったときの追い方は、三つあります。一つは「それはなぜですか」を、重ねすぎない範囲で2回まで挟むこと。二つ目は、沈黙を先に埋めないこと。相手が考えている数秒を、こちらが質問で潰さないだけで、出てくる情報が変わります。三つ目は、話が一般論に流れたら「直近でそれが起きたのはいつですか」と日付に戻すことです。
よくある質問5選
質問11回のインタビューで、20問すべて聞くべきですか?
聞きません。1回で使うのは、1つの場面の5問と、そこで出てきた話の深掘りだけです。30〜45分で5問を深く聞くほうが、20問を浅く流すより持ち帰れるものが多くなります。場面は、いま確かめたいことに合わせて選びます。
質問2相手が「特に困っていない」と言ったら、どうすればいいですか?
入口を変えます。困りごとを直接聞くのをやめて、直近の一日の作業を順番にたどってもらうと、本人が困りごとと認識していない手間が出てくることがあります。それでも何も出ないなら、質問ではなく聞く相手が合っていない可能性のほうが高いです。
質問3知り合いに聞いても意味はありますか?
質問の練習にはなりますが、判断の材料にはしにくいです。知り合いは答えを良い方向に寄せます。答えが良すぎるときは、まず相手が合っているかを疑ってください。
質問4質問は、そのまま読み上げていいですか?
そのまま読み上げて構いません。ただ、書いた順に読むのではなく、相手の答えに合わせて順番を入れ替えます。台本は、話が逸れたときに戻る場所として持っておくものだと考えると使いやすいです。
質問5オンラインでも同じ質問が使えますか?
使えます。ただ、画面越しだと相手の手元が見えないので、「その画面、いま見せてもらえますか」と実物を見せてもらう一言を足すと精度が上がります。作業の話を聞くときほど、この一言が効きます。
この記事で触れた事例の出典
最終更新:2026年9月16日
