この記事の内容
新規事業のプレゼン資料は、テンプレートを手に入れても解決しません。埋める枠があると作業は進みますが、聞いている側が知りたい順番と、枠の順番が一致しているとは限らないからです。資料で決まるのは見た目ではなく、話す順番です。 この記事では、誰の困りごと、いまの解決策、提案、確かめたこと、数字、次にほしいものという6つの部品を順に組む作り方を書きます。そのうえで、社内稟議・投資家向け・コミュニティでの発表という3つの場面で、変えてよい部分と変えてはいけない部分を分けます。配布用のひな形ではなく、自分の案件で組み立てられる形を目標にしています。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
資料は「型」より「順番」で決まる
新規事業の資料でいちばん多い失敗は、提案から始めることです。作りたいものの説明を先にすると、聞いている側は、その前提である困りごとを自分で推測しながら聞くことになります。推測が外れた瞬間、そのあとの説明はすべて届かなくなります。
順番を決めるときの基準は単純で、聞き手が「それは確かに困る」と言える場所まで戻ってから始めることです。 戻る先は、たいてい具体的な場面です。誰が、どんなときに、何をしていて、どこで詰まっているのか。この解像度が足りないまま進めると、質問はすべて「それ、本当にニーズあるの?」に集約されます。
作る順番も、スライドの1枚目からではありません。先に決めるのは最後のページ、つまり「次にほしいもの」です。判断してほしいのか、予算がほしいのか、紹介してほしいのか。終着点を決めてから逆算すると、途中のページに何を載せるかが自動的に決まります。
そのうえで、最初の1枚を作ります。手を動かす順番としては、最後 → 最初 → 途中、が迷いにくい形です。途中のページから作り始めると、資料は長くなり、話は散ります。
部品1〜3:誰の困りごと/いまの解決策/提案
前半の3つは、聞き手を自分と同じ土俵に立たせるための部品です。
誰の困りごと。 職種や業界のような属性ではなく、場面で書きます。「中小企業の業務効率化」では、誰も自分の話だと思いません。どんなときに、何回、どれくらいの手間がかかっているのか。ここは推測で書かず、実際に見聞きしたものだけを書きます。
いまの解決策。 困っている人は、たいてい何かで済ませています。手作業、Excel、他社のサービス、あるいは我慢。いまの解決策を書けない提案は、まだ相手のことを調べ切れていないという意味になります。 ここを書くと、競合の話も自然に入ります。競合がいること自体は弱点ではありません。株式会社Walkers代表の渡邊敦司は、公開しているポストで、検討中の新規事業に競合がいたときの反応として「普通の人:やっぱやめとくか…/BizDev:やったー市場がある!!」と書いています。すでに誰かが解いているということは、困りごとが実在する証拠でもあります。
提案。 ここではじめて、自分たちが何をするかを出します。書くのは、機能の一覧ではなく、いまの解決策と比べて何がどう変わるのかです。渡邊敦司は、Who・When・What・Where・How・Whyを埋めると新規事業のコンセプトになるとも書いています。提案のページに必要なのは、このうちWhat・How・Whyの三つです。残りは、前半のページですでに説明が済んでいます。
部品4〜6:確かめたこと/数字/次にほしいもの
後半の3つは、提案を「思いつき」から「判断できる材料」に変える部品です。
確かめたこと。 何人に、どうやって当てて、何が分かったのか。自信や熱意ではなく、確かめた事実が提案の重さを決めます。 分かったことと同じくらい、分からなかったことも書きます。全部に答えがある資料は、かえって信用されません。
数字。 ここで注意が要るのは、目標値と実測を混ぜないことです。2026年8月23日のハッカソンで運営が作った記録アプリのBENLOGは、合格ラインを7日後の継続率40%、30日後20%、1日平均3.5件と置いていました。これは検証の前に置いた目標値で、実測の数字ではありません。資料でも、この区別をそのまま書きます。「先に置いた線」と「出た結果」を同じページに並べると、判断する側は自分で評価できます。
次にほしいもの。 最後のページには、相手にしてほしいことを一つだけ書きます。決裁、予算、人、紹介、テストに協力してくれる相手。複数並べると、どれも決まりません。金額や期間を伴うなら、そこも具体的に書きます。「検討をお願いします」で終わる資料は、検討されないまま終わります。
社内稟議:変えるのは「リスクの引き受け方」
6つの部品の並びは、相手が変わっても変えません。変えるのは、それぞれのページの重さです。
社内稟議で重くなるのは、確かめたことと、リスクの扱いです。決裁する側が背負うのは、事業の成否だけでなく、社内での説明責任でもあります。だからこそ、社内資料でいちばん効くのは、うまくいかなかったときにどこで止められるかを先に書いておくことです。
具体的には、次の3つを入れると通りやすくなることが多いです。
- 止めどころ:どの数字が、いつまでに、どこまで届かなかったら止めるのか
- 使う額の段階:最初に使う額と、次の判断まで追加で要らない期間
- 既存事業への影響:人・顧客・ブランドに、どう触れるか/触れないか
比較を求められる場面も多くなります。京都大学のKULALISでは、4社の見積もりを比べて採用が決まりました。相見積もりや代替案の比較は、社内資料では省かないほうが無難です。比較の過程を見せると、結論そのものより先に、判断の手続きが信用されます。
一方で、社内向けだからといって、数字を大きく見せる必要はありません。社内資料の数字は、あとで実績と突き合わせられます。盛った数字は、次の稟議のときに自分の信用を削ります。
投資家向け:変えるのは「伸び方」の説明
投資家向けで重くなるのは、市場の大きさと、伸び方の説明です。困りごとが実在することは前提として、そのうえで「この構造なら大きくなる」という説明が要ります。社内稟議とは逆で、止めどころよりも、うまくいった場合にどこまで行くのかの説明に紙面を使います。
ここでも、確かめたことのページは削りません。むしろ、小さくても実際に動かした事実のほうが効きます。UPSTA JapanのApoLinkは、テストマーケでマッチング機能への反応が良いと分かったため、開発の途中で作る順番を組み替え、それでも予定どおりリリースしました。開発2ヶ月半、リリースから1ヶ月半で会員200人弱です。数字の大きさではなく、確かめて、判断して、動かした過程が伝わる形にします。
作り切る力を示す材料も、あると強くなります。株式会社Walkersが自社で出したPrompt Labは構想からベータ版公開まで3週間、山本製作所の案件では3週間かかると見ていた開発が2週間以内に完成しています。速さそのものというより、決めたことを形にして出せるという説明に使えます。
コミュニティでの発表:変えるのは「ほしい助け」の具体性
勉強会やコミュニティでの発表は、判断してもらう場ではなく、助けをもらう場です。ここでは、次にほしいもののページがいちばん重くなります。聞き手が具体的に動ける形で書かれていないと、感想だけが返ってきます。
時間も短いことが多いので、部品の量を絞ります。誰の困りごとと、提案と、次にほしいもの。この3つだけでも成立します。逆に、ここで一般論の市場規模を語っても、その場でできることは増えません。
発表の粒度の例として引けるのが、2026年8月23日に東京・目白台とオンラインで開いたハッカソンです。開発が初めての人や事業を持っていない人を含む参加者全員が、4時間弱でプロダクトを完成させて発表し、ビジネスモデルと初期ユーザーの獲得方法まで踏み込んだ内容になりました。生まれたのは5本(参加者3本+運営2本)です。少人数の回で、アンケートに答えた3名は満足度が全員10点満点でした。短い時間でも、「どう稼ぐか」と「最初の人をどう集めるか」まで言い切ると、返ってくる助言の質が変わります。
その場で試せる形に落とすことも有効です。動くものを見せる、画面を1枚見せる、実際の困りごとの記録を見せる。説明が減るほど、聞き手の反応は具体的になります。
よくある質問5選
質問1新規事業のプレゼン資料は、何ページくらいが適切ですか?
枚数より、6つの部品が過不足なく入っているかで決めます。社内稟議なら止めどころと段階の説明が増え、コミュニティでの発表なら3つの部品で足りることもあります。持ち時間から逆算して、1ページあたりに話す時間を決めると、自然に枚数は決まります。
質問2検証がまだ十分でない段階でも、資料を作っていいですか?
作って構いません。その場合、確かめたことのページに「まだ確かめていないこと」を明記します。未検証を隠して作ると、質問で崩れます。むしろ、何が分かっていないかを書いたほうが、次にほしいものが具体的になります。
質問3デザインはどこまで作り込むべきですか?
作り込みは、内容が固まったあとで構いません。順番が決まっていない資料は、きれいにしても伝わりません。作り込みたくなったら、その時間を、確かめたことを一つ増やすほうに使うと、資料そのものが強くなります。
質問4社内向けと投資家向けで、資料を2つ作るべきですか?
部品の並びは同じなので、1つを土台にして、重さを変えるのが実務的です。社内向けでは止めどころと段階の説明を足し、投資家向けでは伸び方の説明を足します。土台が同じだと、どちらの場でも説明がぶれません。
質問5質疑で答えられなかったときは、どうすればいいですか?
分からないことは、その場で「確かめていません」と言うほうが安全です。推測で答えると、あとで数字を直すことになります。答えられなかった質問は、そのまま次に確かめる項目になります。ハコブネでは定期報告会や10分の個別メンタリング、1DAY新規事業立ち上げイベントの場で、発表の形にして質問を受けられます。
この記事で触れた事例の出典
最終更新:2026年9月16日
