この記事の内容
スモールビジネスの成功例を業種で集めても、自分の事業には移せません。飲食店の話は飲食店の人にしか刺さらないからです。そこでこの記事では、続いている事業を業種ではなく「何を変えたか」で4つの型に分けて整理します。型で読むと、まったく違う業種の話でも「自分の場合はここが同じだ」と当てはめられます。取り上げるのは、一番飯店、台湾トーク、One Company、株式会社マックス、サカチムプラス、ツナガルの6例です。最後に、自分の事業でどの型から手をつけるかの選び方を置きました。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
まず「成功例」の意味をはっきりさせておく
この記事で成功例と呼ぶのは、売上規模が大きくなったことではなく、手が回るようになって事業が続いていることです。理由は単純で、スモールビジネスが終わる原因の多くは、売れないことより先に、回らなくなることだからです。
回らなくなり方には型があります。受注は増えたのに事務が追いつかない。人数が増えるほど確認作業が増える。情報の更新が遅くて機会を逃す。売っているものが何なのか自分でも説明できない。どれも、売上の数字だけを見ていると気づきにくい詰まり方です。
だから以下では、売上や利益ではなく「何を変えたか」と「その結果どう楽になったか」を軸に並べます。なお、ここに出てくる期間や削減率は各社の取材記事に出ている数字で、同じことをすれば同じ結果になるという意味ではありません。 事業の条件は一社ずつ違います。
型1:手で運んでいた情報を、置き場所ひとつにまとめた
いちばん多く、いちばん効きやすいのがこの型です。紙・口頭・チャットで人から人へ運ばれている情報を、ひとつの置き場所に集める。それだけで、書き写しと聞き直しと行き違いがまとめて消えます。
1952年創業、高田馬場の中華料理店、一番飯店はスタッフ4名の店舗です。オーダーは紙伝票とトランシーバーで回していました。これをノーコードのオーダーシステムに置き換えたところ、ベータ版まで2週間、オーダーの労力は約50%削減(依頼者の体感)で、導入から約2年使われ続けています。
この型で見るべきは削減率ではなく、2週間という短さと、2年という長さです。短く作れたのは、店舗のオーダーという一箇所に絞ったからです。2年続いているのは、毎日必ず発生する作業に当てたからです。使う頻度が低い作業から手をつけると、作っても定着しません。
- 同じ内容を2回以上、人が書き写している
- 「さっきの件どうなった?」を毎日聞いている
- 紙とチャットとエクセルに、同じ情報が分かれて置いてある
型2:人数に比例して増えていた仕事と費用を切り離した
事業が伸びるほど苦しくなるなら、伸びること自体ではなく、比例している部分が問題です。この型は、その比例を断ち切った例です。
語学学校の台湾トークは、生徒約370名・講師約70名を抱え、管理業務に月30時間かかっていました。生徒と講師が増えるほど、突き合わせと連絡の手間が増える構造です。ここに自社向けのシステムを入れる開発を、10ヶ月かけて進めています。10ヶ月という期間は、人と人の組み合わせを扱う仕組みが、置き場所を作るだけの案件より重くなることを示しています。
療育支援のOne Companyは、費用のほうが比例していました。ユーザー数に比例して費用が増える既存のシステムを使っていたため、利用が増えるほど支払いも増えます。これを自社専用システムへ移し、開発期間は6ヶ月でした。同社では連絡帳の作成に1日約1時間かかっていました。
- 人数・件数が増えると、同じだけ作業時間が増えている
- 利用が増えると、月額の支払いも同じ形で増えている
- その比例を止められれば、伸ばすことが怖くなくなる
この型は効果が大きいぶん、期間も費用もかかります。 型1のように2週間では終わりません。比例している量が実際にどれだけあるかを測ってから判断するのが順当です。
型3:更新の速さを変えて、届く相手を広げた
情報そのものは持っているのに、出すのに時間がかかるせいで機会を逃している、という詰まり方があります。
株式会社マックスは、補助金を使ってコーポレートサイト・外国人向け求人サイト・メディアを立ち上げました。求人情報の更新は通常1週間(最短3日)かかっていたものが、30分〜1時間になりました。 あわせて4か国語に対応しています。採用は募集をかけるタイミングがそのまま結果に効くので、1週間が1時間になることは「早くなった」以上の意味を持ちます。
補助金については、ひとつ注意が要ります。制度名・上限額・要件は年度ごとに変わるため、この記事では具体的な制度名を挙げません。検討する際は、必ず最新の公募要領を確認してください。 Walkersの補助金申請支援では、支援総額5億1807万円、相談300件以上、累計支援121件の実績がありますが、採択を保証するものではありません。
- 情報を出すまでの時間を測ってみる(何日かかっているか)
- 遅いせいで逃しているものが何かを言葉にする
- 速さが直接お金に変わる領域(採用・在庫・予約)から手をつける
型4:売り物の中身と、届ける入口を言い換えた
最後は、作るものではなく「何を売っているか」の理解を変えた型です。
サカチムプラスは、個人が運営するサービス「サカチム」の有料版です。当初は検索サイトの強化を有料版の中身として想定していましたが、対話を重ねる中で、売り物は検索性能ではなく「チーム専用ホームページの質」だと方向転換しました。結果として100種類の配色を実装しています。既存のサカチムには164チームが登録しています。検索を強化していたら、おそらく別の結果になっていました。
高福合同会社のツナガルは、入口を変えた例です。会員システムを、独立したWebサービスとしてではなく、LINE公式アカウントと連携する形で開発しました。開発期間は1ヶ月、開始約2ヶ月で会員12名・LINE約60名まで来ています。新しい場所に来てもらうより、相手がすでに開いている場所に置くほうが、たいてい早く届きます。
この型は、型1〜3と違って「作業が何時間減った」では測れません。代わりに、説明したときの相手の反応、申し込みまでの離脱、リピートで判断することになります。数字が出るまでに時間がかかるぶん、聞き取りの回数で補う必要があります。
4つの型から、自分の一手を選ぶ
4つを並べると、期間と効き方が違うことがわかります。
- 型1(情報の置き場所):短期で作れることが多い。毎日発生する作業があるなら、ここから
- 型2(比例を切る):数ヶ月かかる。人数や件数が増えて苦しいなら、ここ
- 型3(更新の速さ):出すまでの遅さが機会損失になっているなら、ここ
- 型4(売り物と入口):作っても売れていない、説明が長くなるなら、ここ
選び方は、いま何で困っているかで決まります。「作れば良くなりそう」ではなく、「毎週これで時間が溶けている」と名指しできるものから手をつけてください。 名指しできない段階で開発に入ると、作ったものが誰の何を助けるのか最後まで決まらないまま完成します。
判断がつかないときは、直近1ヶ月で自分が何に時間を使ったかを、粗くていいので書き出すのが早道です。一番飯店のオーダー、台湾トークの月30時間、One Companyの連絡帳1日約1時間は、いずれも取材の中で当事者が具体的に言えていた数字です。言える数字があるかどうかが、着手できる状態かどうかの目安になります。
よくある質問4選
質問1ここでいう成功例の基準は何ですか。
売上規模ではなく、手が回るようになって事業が続いていることを基準にしています。スモールビジネスは売れないことより先に回らなくなって終わることが多いので、続いているかどうかを見るほうが実務的だと考えています。
質問2記事の削減率や期間は、自分の場合も同じになりますか。
なりません。挙げた数字は各社の取材記事に出ているもので、たとえば一番飯店の約50%削減は依頼者の体感です。事業規模・作業の内容・使っている道具が違えば結果も変わるので、参考の範囲としてお読みください。
質問3補助金は使えますか。
制度によります。制度名・上限額・要件は変わるため、この記事では具体的な制度名を挙げていません。検討する際は必ず最新の公募要領を確認し、必要に応じて支援機関や専門家に相談してください。 採択されるとは限りません。
質問44つの型を同時に進めてもいいですか。
おすすめしません。同時に動かすと、何が効いたのか後から判断できなくなります。いちばん時間が溶けている一箇所を選んで、そこが軽くなったことを確かめてから次に移るほうが、結果として早いことが多いです。
この記事で触れた事例の出典
最終更新:2026年9月16日
