この記事の内容
起業アイデアの出し方でつまずく人の多くは、思いつく作業を才能の問題だと考えています。実際には、発想は当たりを引く作業ではなく、手持ちの素材を決まった手順で組み替える作業です。この記事では、自己分析・不便探し・掛け算・移植・トレンド接続の5つを、それぞれ手を動かす形にして並べます。どこを掘るかという話は別の記事にまとめてあるので、ここは出す技術だけに絞ります。最後に、出した案を扱える形に整える方法も書きます。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
出し方の良し悪しは、1案の質ではなく並べられた数で決まる
一つの案をじっくり練る人ほど、その案から離れられなくなります。時間をかけたぶん、捨てるのが惜しくなるからです。逆に、短時間で並べた案は軽いので、否定されても次に行けます。
だから最初に決めるのは、質ではなく量です。出す作業と選ぶ作業を同じ時間の中でやらない。これだけで出る数は変わります。以下の5つは、どれも「選ばずに出す」ことを前提にした手順です。
そのうえで、量を出すための決まりごとを3つだけ置いておきます。
- 出す時間と選ぶ時間を分ける。同じ机の上で両方やると、出す側が必ず負けます
- 1回は短く、回数を増やす。30分を週に3回のほうが、3時間を月1回より並びます
- 口頭で消さない。「これはダメだな」と思った案も書き残す。あとで別の案の材料になります
5つは全部使う必要はありません。1と2は自分の内側から、3と4は外の型から、5は環境の変化から取る方法です。詰まったときに切り替える引き出しとして持っておくと、同じ方法で粘るより早く抜けられます。
出し方1:自己分析を「動詞」に置き換える
棚卸しをしても案が出ない人は、たいてい名詞で書いています。「Webデザインができます」「経理をやっていました」では、他の何ともくっつきません。
動詞まで割ります。他人の文章を短くできる、見積もりを1日で出せる、初対面の人に話を聞ける、断りの連絡を角が立たないように書ける。この粒度まで落とすと、あとの掛け算で使えるようになります。目安として、10個書けたら十分です。書けないときは、直近1か月の自分の1日を時間割で書き出して、そこから動詞を抜くほうが早く出ます。
株式会社Walkersが出したHP Answerは、ヒアリングシートだけで打ち合わせ0回、48時間以内に初稿を3パターン出す形にしました。制作費0円・月額4,900円という値付けは、提供の原価を下げたから成立しています。「ホームページを作る」ではなく「打ち合わせを消す」という動詞で切ったから、この形になったと言えます。
出し方2:不便を「回避策の数」で測る
不便はいくらでも挙がります。全部が事業になるわけではありません。選別に使えるのは、その不便に対してすでに誰かが自前の回避策を作っているかどうかです。
手順は3段階です。不便を書く。その現場に回避策があるか探す。その回避策に、人の時間かお金がすでに使われているかを確かめる。3段目まで残ったものだけが候補になります。
一番飯店では、紙伝票とトランシーバーで注文を回していました。これは回避策です。回避策が定着しているということは、その困りごとが毎日発生していて、無視できない大きさだということです。ノーコードのオーダーシステムに移したあと、オーダーの労力は約50%削減されたと依頼者が話しています(体感値です)。
出し方3:掛け算(2つの列を機械的に組む)
紙を用意して、左に自分の動詞を10個、右に業界・対象・場面を20個書きます。あとは総当たりで線を引くだけです。
ここで大事なのは、9割が捨て案になる前提で進めることです。掛け算の目的は当てることではなく、自分の頭からは出ない組み合わせを機械的に作ることです。良さそうかどうかを1件ずつ考え始めると、20分で止まります。
組み合わせの例として、ビジネスマッチングのApoLink(UPSTA Japan)は、日程調整と決済を一体にした形でした。日程調整も決済も単体では珍しくありませんが、一体にすると別の価値になります。既存の機能同士をくっつけるのは、掛け算のいちばん素直な使い方です。
出し方4:移植(他業界で成立している型を、そのまま持ってくる)
世の中で回っている仕組みは、それほど種類がありません。会員制、サブスク、予約、マッチング、審査、記録、代行、比較。これらは業界をまたいで使い回せます。
手順は、自分が客として体験して良かった仕組みを3つ書き出し、それを自分の業界に置き換えるだけです。置き換えるときは、機能ではなく「客がうれしかった瞬間」を移します。
高福合同会社のツナガルは、会員システムをLINE公式アカウントと連携させて1ヶ月で開発し、開始から約2ヶ月で会員12名・LINEの登録は約60名になりました。会員制という型と、すでに使われている連絡手段を組み合わせた形です。サカチムプラスは、個人が運営していたサカチムの有料版として作られ、当初は検索サイトの強化が想定されていましたが、対話を重ねて「チーム専用ホームページの質」へ方向を変え、配色を100種類実装しました。既存のサカチムには164チームが登録しています。移植はゼロから考えないぶん、外れ方が小さいのが利点です。
出し方5:トレンド接続(安くなったことに、既存の仕事をつなぐ)
新しい技術そのものを事業にしようとすると、「誰の何が楽になるのか」が抜けたまま進みます。接続する側で考えるほうが速いです。
手順は2行です。ここ1〜2年で安くなったこと・できるようになったことを1つ書く。それによって原価が下がる既存の仕事を書く。この2行が埋まれば候補になります。
株式会社マックスでは、補助金を使ってコーポレートサイトと外国人向け求人サイト、メディアを立ち上げました。求人情報の更新は通常1週間(最短3日)かかっていたものが30分〜1時間になり、4か国語に対応しています。作る速度が上がると、出せる本数も変わります。Walkersの自社サービスPrompt Labは、構想からベータ版公開まで3週間でした。
出した案は、5W1Hで一文にする
出しただけの案は、翌週には自分でも意味が分からなくなります。扱える形に整えてください。
つかさは、Who・When・What・Where・How・Whyを埋めると新規事業のコンセプトになる、という趣旨の投稿をしています。この6つを1行ずつ埋めます。埋まらない欄が出たら、それは案の欠陥ではなく、次に調べることのリストです。
埋める順番は、WhoとWhyを先にしてください。誰が、なぜ困っているかが空欄のまま、HowとWhatだけ詳しい案は、たいてい自分が作りたいものの説明になっています。
一文にすると、人に話せるようになります。話せるようになると、相手が引っかかった箇所が分かります。この往復が始まるまでが、出す工程です。ここから先は、並べた案を絞る工程に移ります。
よくある質問5選
質問15つのうち、どれから始めるのがいいですか。
手元に材料がある人は1と2から、材料が少ない人は4の移植からが動きやすいです。移植は他人が成立させた型を借りるので、ゼロから考える負荷がいちばん小さくなります。詰まったら別の出し方に切り替えてください。同じ方法で粘るより、方法を変えるほうが出ます。
質問2掛け算をやると、ばかばかしい組み合わせばかりになります。
それで正常です。総当たりは捨て案を大量に作る手順なので、9割は使えません。目的は、真面目に考えたら絶対に出てこない組み合わせを1つか2つ拾うことです。ばかばかしいと感じた案ほど、書き残しておいてください。
質問3出した案が多すぎて、どれを進めるか分かりません。
出す工程と絞る工程は分けてください。絞るときは、需要・自分の強み・続けられるか・確かめやすさの4つで見ます。基準と捨て方は別の記事にまとめてあります。この記事の段階では、並べたまま置いておくのが正解です。
質問4前例のない案でないと意味がないのでしょうか。
そんなことはありません。すでに誰かがやっている領域は、お金が動いていることの証拠でもあります。前例のある型を別の相手に移す、というやり方のほうが、確かめるまでの距離は短くなることが多いです。
質問5一人で出していると、同じような案ばかりになります。
材料が自分の中だけだと、そうなります。右の列(業界・対象・場面)を他人から借りるのが早い対処です。ハコブネのランチ会は月1〜2回・1回60〜90分の少人数で、メンバー以外の参加もあります。自分と違う現場を持っている人と話すと、右の列が増えます。
この記事で触れた事例の出典
最終更新:2026年9月16日
