この記事の内容
AIを使えば、アプリやWebツールは数日で形になるようになりました。ところが、公開してしばらく経っても売上が0円のまま、という状態で止まる人は少なくありません。作る速さが上がったぶん、「誰が、なぜ、いくら払うのか」を決めないまま公開まで進めてしまうからです。個人開発の収益化は、機能を足す前に、払う人と払い方を決めるところから進みます。この記事では、買い切り・サブスク・従量課金・広告・受託化(B2B)の5つの収益モデルを「誰が払うか」と「どれだけ使うか」で選ぶ方法、磨き込む前に最初の有料ユーザーを得る手順、値付けの試し方を順に整理します。ハコブネを運営する株式会社Walkers(累計開発実績300件)が自社サービスで選んだ料金の形や、支援先が開発の途中で作る順番を変えた例も紹介します。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
「作れた」と「稼げる」は別の工程
作れた時点で分かっているのは、自分にそれが作れるということだけです。売上が立つまでには、コードの外側にある3つの段差を越える必要があります。
一つめは、払う人がいることです。「便利そう」と言ってくれる人と、財布を開く人は別です。二つめは、払い続ける理由があることです。一度払って終わる商品なのか、毎月払う価値が続く商品なのかで、売り方がまったく変わります。三つめは、その人に届く経路があることです。どれほど良いものでも、困っている人の目に入らなければ売上は0円のままです。
AIで変わったのは、主に「作る」の速さです。2026年8月にハコブネが開いたAI新規事業立ち上げハッカソンでは、開発が初めての人や事業をまだ持っていない人を含む参加者全員が、4時間弱でプロダクトを完成させて発表しました。この日に生まれたのは5本です。
一方で、3つの段差を越える速さは、AIを使っても大きくは変わりません。払う人を見つけるのも、払う理由を確かめるのも、届ける経路を作るのも、人と話して確かめる作業だからです。作るのが速くなった今、個人開発の時間の使い道は「作る」から「売れるか確かめる」へ寄せる必要があります。
ここから先は、まず払い方の形(収益モデル)を決め、次に最初の1人に払ってもらい、そのうえで値段を調整する、という順で進めます。
収益モデルは「誰が払うか」と「どれだけ使うか」で選ぶ
Walkersの開発メディアでは、アプリの収益化の方法を11種類に分けて整理しています。個人開発の最初の段階では、次の5つにまとめると選びやすくなります。
- 買い切り:一度払えば使い続けられる形。使う頻度が低く、できることがはっきりした道具に向きます。公開後も毎月費用がかかる場合は、利用者が増えるほど赤字になりやすい形です
- サブスク(月額):毎週・毎日使われるものに向きます。解約されない理由を作り続ける必要があります
- 従量課金:使った分だけ払う形。AIの処理回数に応じて原価が増えるツールと相性がよい形です
- 広告:無料で多くの人に使ってもらい、広告で稼ぐ形。利用者の数がかなり大きくならないと、まとまった金額になりにくい形です
- 受託化・B2B:作ったものを、事業者向けの導入・運用サービスとして売る形。件数は少なくても、1件あたりの金額を大きくできます
個人が払うのか、事業者が払うのか
最初に決めるのは、お金を出すのが個人か事業者かです。個人は自分の財布から払うので、月数百円の差でも迷います。事業者は減る手間や増える売上と比べて判断するので、効果が説明できれば単価を上げられます。
使う頻度と、毎月かかる原価
次に、使われる頻度と、自分の側で毎月かかる費用を並べます。WalkersのHP Answerの料金は、この考え方で見ると分かりやすい例です。ホームページは、公開したあともサーバーやドメイン、更新の手間が続くものです。HP Answerはその続く部分に料金を合わせ、制作費0円・月額4,900円(サーバー・ドメイン・保守を含む)という形にしています。
生成AIのAPIを呼び出すツールは、利用者が1回使うごとに原価が発生します。これを買い切りで売ると、熱心に使う人ほど赤字になります。APIの料金は変わるため、各社の公式ページで最新の単価を確かめたうえで、1人あたりの原価を見積もってから収益モデルを決めてください。
磨く前に、最初の1人に払ってもらう
収益モデルの見当がついたら、完成度を上げる前に、最初の有料ユーザーを1人作ります。1人目が払ってくれるかどうかで、ここまでの仮説がまとめて確かめられるからです。次の4つの手順で進めます。
1. 払ってくれそうな人を、名前で10人書き出す。 「30代の会社員」のような属性ではなく、顔が浮かぶ人の名前で書きます。10人書けないなら、作るものより先に、その困りごとを持つ人がどこにいるかを探す段階です。
2. 完成前に、価格を書いた説明を見せる。 何ができて、いくらで、いつから使えるかを1枚にまとめ、申し込みの手段を付けて見せます。「いいね」と言われるのと、「申し込みたい」と言われるのとでは、得られる情報の重さが違います。
3. 最初の数人には、手作業も混ぜて届ける。 自動化が済んでいない部分は、自分で手を動かして補います。たとえば集計を毎週手作業で送るだけでも、払う価値があるかは確かめられます。自動化は、払う人がいると分かってからで間に合います。
4. 払った人に、なぜ払ったかを聞く。 決め手になった機能と、迷った点を聞きます。ここで出た言葉が、そのまま次の説明文や値付けの材料になります。
この順番は、受託開発の現場でも成果につながっています。Walkersが開発を支援したUPSTA Japanの「ApoLink」(日程調整と決済が一体になったビジネスマッチングサービス)は、開発の途中でテストマーケティングを行いました。そこでマッチング機能への反応が圧倒的に良かったため、後の段階に予定していたマッチング機能を最初のリリースに前倒しし、予定どおりの時期に公開しています。リリースから約1ヶ月半で、会員は200人弱まで増えました。
ApoLinkの判断で大事なのは、作る順番を作り手の好みで決めず、相手の反応という事実で決めたことです。個人開発でも、完成前に反応を見れば、作る順番を同じように入れ替えられます。
値付けは一度で決めず、試して決める
値段は、最初から正解を当てるものではありません。Walkersの解説記事でも、アプリの収益化でよくある失敗の一つに価格設定のミスが挙げられています。個人開発では特に、自信のなさから安くしすぎる失敗が起こりがちです。安すぎる価格は、払う人を増やすより先に、続ける体力を削ります。
試し方は難しくありません。一つめは、説明の段階で価格を見せて反応を比べることです。同じ説明に別の金額を載せ、申し込みの率がどう変わるかを見ます。二つめは、2〜3段のプランを並べることです。真ん中を選ぶ人が多いのか、いちばん安いものに集中するのかで、払う人が何に価値を感じているかが分かります。三つめは、値上げを新しく申し込む人から行い、既存の利用者の価格は据え置くことです。早く払ってくれた人を裏切らずに、上の価格を試せます。
こうした試行は、公開が早いほど早く始められます。Walkersが自社で作ったプロンプト活用サービス「Prompt Lab」は、構想からベータ版の公開まで3週間でした。公開を早めれば、値段に対する本当の反応を聞ける時期も早まります。
アプリストア経由で課金する場合は、売上から手数料が差し引かれます。率や外部決済の扱いは制度の変更で変わっており、WalkersのAI駆動開発の解説記事でも2025年12月に施行されたスマホ新法による変化を整理しています。値段を決める前に、ストアの公式ページで最新の条件を確かめ、手取りで計算してください。値付けの目的は、正しい金額を当てることより、払う人が何にお金を出しているかを知ることにあります。
受託化・B2Bに寄せるという選択肢
個人向けに薄く広く売る形は、利用者の数が大きくならないと収益になりません。一人で作って一人で売る個人開発では、その母数を集めるのがいちばん難しい部分です。そこで検討したいのが、事業者向けに寄せる道です。
ハッカソンで生まれたプロダクトにも、事業者向けのものが含まれていました。社員の資格期限管理アプリと、類似のPoCを横断比較する企業向けのPoC設計ツールです。PoC設計ツールは、開発がまったく初めての参加者が約4時間で作り、受賞しています。どちらも、困っている業務と、その業務に予算を持つ担当者がはっきりしている題材です。
運営チームが作ったインタビューAIメディアは、取材を入口にして業界に特化した見込み客のリストを集める設計でした。アポ取り・質問設計・文字起こし・記事化をAIに任せる形です。プロダクトそのものを売るのではなく、プロダクトを使って事業者との接点を作り、そこから仕事につなげる考え方です。
事業者向けに売るときは、ツール単体で売る前に「その業務を代わりに回す」受託として売る方法もあります。数社から同じ依頼が続いたら、その部分をツールにして月額に切り替えます。最初から完成したツールを売るより、何にお金が払われるかを確かめながら進められます。
収益化の手前で止まりやすい場面
作ったものが収益に届かないとき、原因はだいたい次のどれかに当てはまります。
- 無料で配って満足する:使ってもらえた喜びで止まり、払ってもらう段階に進まないまま時間が過ぎます
- 反応の悪さを機能で埋めようとする:反応が薄いと機能を足したくなりますが、届いていない人には機能が増えても伝わりません
- 価格を誰にも見せていない:値段を見せないまま「いくらなら払いますか」と聞くと、答えは実際より甘くなります
- 原価を計算していない:AIのAPIやサーバーの費用を見ないまま売ると、売れるほど赤字が増えることがあります
- 何も測っていない:見た人、使い始めた人、払った人の数を記録していないと、どこで止まっているか分かりません
どれも、作る作業より手前か後ろにある問題です。作る作業に戻りたくなったら、上の5つのどれに当たるかを先に確かめてください。
作る形式も見直せます。Walkersのアプリ開発の資金調達を扱った記事でも、開発費を抑える方法の一つにWebアプリでの開発を挙げています。Webアプリはストアの審査を待たずに公開できます。最初の有料ユーザーを確かめる段階では、ストアに出すアプリより、URLを送ればすぐ使えるWebアプリのほうが動きやすい場面が多くあります。
一人で決めきれないときに、ハコブネでできること
ハコブネは、AIで新規事業を立ち上げる個人・経営者のコミュニティで、運営は株式会社Walkersです。1日でプロダクトを形にする1DAY新規事業立ち上げイベントは、アイデアがなくても、開発が初めてでも参加でき、会員は参加費無料、一般は3,000円です(日程は1DAYイベントのページで案内しています)。月1〜2回のランチ会では、作っているもののことを参加者どうしで話せます。3ヶ月・全6回の個別伴走である新規事業立ち上げゼミでは、立ち上げる対象を1つに決め、MVPを動かし、リリースから集客設計までを一緒に進めます。入会するか迷っている場合は、オンラインの無料相談会で、いま作っているもののことを話しながら決められます。
よくある質問5選
質問1個人開発で月にいくら稼げますか?
金額は、払う人の数、1人あたりの単価、払い続ける期間の掛け算で決まります。先に目標の金額を置き、それに必要な人数と単価を逆算してください。必要な人数が自分の届けられる範囲を超えるなら、単価を上げられる事業者向けを検討します。
質問2無料版は用意したほうがいいですか?
無料版は、使ってみないと価値が伝わらないものに向きます。一方で、無料で十分に満足されてしまうと有料版に進みません。最初の段階では、無料の範囲を狭くし、払う理由が残る線を引いてください。
質問3スマホアプリとWebアプリ、収益化しやすいのはどちらですか?
最初の有料ユーザーを確かめる段階では、Webアプリのほうが進めやすい場面が多いです。ストアの審査を待たずに公開でき、決済の形も自分で選べます。毎日開く習慣のアプリや通知が欠かせないものは、反応が確かめられてからスマホアプリにする方法もあります。
質問4プログラミングが分からなくても収益化まで進めますか?
作る部分は、AIを使えば初めての人でも形にできます。ハコブネのハッカソンでは、開発が初めての参加者を含む全員が4時間弱でプロダクトを完成させました。ただし、作れることと収益化できることは別の工程なので、払う人を探す作業は自分で進める必要があります。
質問5広告収益だけでやっていけますか?
利用者の数がかなり大きくならないと、広告だけでまとまった金額にするのは難しいです。個人開発の最初の段階では、少ない人数でも成り立つ有料の形を先に試し、広告は無料版の補いとして考えるほうが現実的です。
この記事で触れた事例の出典
最終更新:2026年10月15日
