この記事の内容
新規事業の立ち上げは、工程そのものより「いま自分がどこにいるのか」が分からなくなったところで止まります。この記事では、着想から公開・改善までを8つの工程に分け、時間の流れに沿って並べ直します。どの工程にも、そこに留まってよい期間の目安と、次に進んでよい条件があります。 期間は公開されている開発事例の数字を使い、条件は「これができたら次」と言い切れる形で書きました。あわせて、前の工程に戻るときの合図と、個人や少人数で進める場合の読み替えも入れています。順番を覚えるためではなく、いま止まっている場所を特定するために読んでください。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
新規事業立ち上げの流れは、8つの工程でできている
立ち上げの作業は、外から見ると一本道に見えます。ただ、工程ごとに決めている対象はまったく違います。何を立ち上げるかを決める時間と、作る順番を決める時間と、出したあとに直す場所を決める時間は、別の仕事です。
ハコブネの新規事業立ち上げゼミ(3ヶ月・全6回・最大2名の個別伴走)では、この順番で進めています。現状整理 → 立ち上げる対象を1つに決める → コンセプト → 顧客 → MVPを作って動かす → 改善 → リリース → 集客設計。この並びで効いているのは、作る工程が5番目に置かれていることです。 最初の4工程は、全部「作らずに決める」ための時間です。
工程にかかる時間は、扱う人数と、置き換える既存業務の複雑さで大きく変わります。公開されている開発の事例を並べても、ベータ版まで2週間のものから開発10ヶ月のものまで幅があります。全体の期間を先に決めようとするより、工程ごとに区切りを置くほうが現実的です。
工程1〜2:現状を整理し、立ち上げる対象を1つに決める(目安:数日〜2週間)
最初にやるのは、アイデアを増やすことではありません。いま持っているものを並べることです。使える時間、動かせるお金、すでに接点のある相手、作れる人、過去に売ったことのあるもの。この棚卸しがないまま案を出すと、実行できない案が候補に混ざります。
株式会社Walkers代表の渡邊敦司は、公開しているポストで、手持ちの資源から始めるエフェクチュエーションの考え方が自分の起業プロセスに近いと書いています。資源の一覧に出てこないものを前提にした案は、着想ではなく願望として扱ったほうが早いです。
そのうえで、立ち上げる対象を1つに決めます。ゼミでこれが独立した工程になっているのは、ここを曖昧にしたまま進む人が多いからです。2案を並走させると、どちらも半分ずつしか進まず、どちらが外れたのかも判定できません。
次に進んでよい条件: 立ち上げる対象が1つに決まっていて、残した案を「今期はやらない」と口に出せること。前に戻る合図: 選んだ対象が、資源の棚卸しに一度も出てこなかった要素に依存しているとき。
工程3〜4:コンセプトを一文にして、顧客に当てる(目安:1〜2週間)
コンセプトは、長い企画書ではなく一文です。渡邊は公開しているポストで、Who・When・What・Where・How・Whyを埋めると新規事業のコンセプトになると書いています。この6つのうち、先に要るのはWho・When・Whatの三つです。誰が、どんなときに、何をするのか。ここが埋まらないうちは、次の工程で何を聞けばいいのかも決まりません。
一文ができたら、実際の相手に当てます。ここで方向が変わることは珍しくありません。個人が運営する「サカチム」の有料版であるサカチムプラスは、当初は検索サイトとしての機能を強化する想定でした。対話を重ねるなかで、価値があるのは検索ではなく「チーム専用ホームページの質」のほうだという結論になり、方向が変わっています。結果として配色は100種類が実装され、既存のサカチムには164チームが登録しています。
当てる回数を増やすには、相手の時間を使わない形にするのが効きます。WalkersのHP Answerは、ヒアリングシートだけで打ち合わせ0回、48時間以内に初稿を3パターン出しています(制作費0円・月額4,900円)。反応を取る手間が軽いほど、当てられる相手の数が増えます。
次に進んでよい条件: 同じ一文を複数の相手に当てて、返ってくる反応の向きが揃っていること。前に戻る合図: 説明のたびに自分で言い方を変えていて、何が伝わったのか説明できないとき。
工程5:MVPを作って動かす(目安:2週間〜数ヶ月)
ここでようやく作ります。期間の幅が一番大きいのもこの工程です。公開されている事例では、次のような差がついています。
- 1952年創業・高田馬場の一番飯店(スタッフ4名)は、紙伝票とトランシーバーでの運用をノーコードのオーダーシステムに置き換え、ベータ版まで2週間
- Walkersが自社で出したPrompt Labは、構想からベータ版の公開まで3週間
- 山本製作所では、3週間かかると見ていた開発が2週間以内に完成
- 高福合同会社のツナガルは、会員システムをLINE公式アカウントと連携して開発し、1ヶ月
- 療育支援のOne Companyは、ユーザー数に比例して費用が増える既存システムを自社専用システムへ置き換えて、開発6ヶ月
差を作っているのは技術の難しさより、扱う人数と、既存業務の絡み方です。語学学校の台湾トーク(生徒約370名・講師約70名、管理業務に月30時間)は開発10ヶ月、京都大学のKULALIS(約200研究室・約700人の利用想定、年間処理400件)は開発6ヶ月かかっています。一方、置き換える範囲が店舗のオーダー1本に絞られていた一番飯店は2週間でした。
短く区切れば、もっと短い時間でも形にはなります。ハコブネが2026年8月23日に東京・目白台とオンラインで開いたハッカソンでは、開発が初めての人や事業を持っていない人を含む参加者全員が、4時間弱でプロダクトを完成させて発表しました。生まれたのは5本(参加者3本+運営2本)です。少人数の回ですが、アンケートに答えた3名の満足度は全員10点満点で、受賞したのは開発が未経験の参加者でした。
次に進んでよい条件: 自分以外の誰かの手元で、一度でも最後まで動いたこと。前に戻る合図: 作っている最中に、渡す相手が毎週のように変わっているとき。この場合は工程4に戻ります。
工程6〜8:改善して、リリースし、集客を設計する(目安:1〜3ヶ月)
この流れでは、改善がリリースより前に置かれています。作ったものを一度動かして直してから出す、という順番です。
改善の材料は、出す前に決めておきます。ハッカソンで運営が作った記録アプリのBENLOGは、確かめる仮説を「うんちを育てるためなら、人は毎日トイレを記録するのか」の一点に絞り、合格ラインとして7日後の継続率40%、30日後20%、1日平均3.5件を置いていました。これは検証前に置いた目標値で、実測ではありません。数字の水準より、出す前に「どこまで届いたら続けるか」が書いてあることのほうが効きます。
改善の結果、作る順番そのものが変わることもあります。UPSTA JapanのApoLinkは、日程調整と決済が一体になったビジネスマッチングです。テストマーケでマッチング機能の反応が良かったため、開発の途中で作る順番を組み替え、それでも予定どおりリリースしました。開発は2ヶ月半、リリースから1ヶ月半で会員は200人弱です。
リリース後の立ち上がりは、規模より速度で見たほうが判断しやすいです。ツナガルは開始から約2ヶ月で会員12名・LINE約60名、Walkers自社のスクールであるTech Studioは動画配信システムを1ヶ月で作って運営し、受講生30名以上になっています。集客設計を先に完成させるより、最初の十数人がどこから来たのかを見て、そこを太くするほうが早いです。
改善は、リリースで終わりません。一番飯店ではオーダーにかかる労力が約50%削減され(依頼者の体感)、導入から約2年が経っています。株式会社マックスは補助金を使ってコーポレートサイト・外国人向け求人サイト・メディアを立ち上げ、通常1週間(最短3日)かかっていた求人更新を30分〜1時間にしました。出したあとに効いてくるのは、運用の手間がどれだけ減ったかです。
次に進んでよい条件と、前に戻るときの合図
各工程で見てきた条件をまとめると、判断の基準は一つです。次の工程の材料が揃ったかどうか。進捗の量ではありません。作業時間が積み上がっていても、次の工程で使える材料が増えていないなら、その工程はまだ終わっていません。
前に戻る合図は、だいたい次の4つに現れます。
- 同じ説明を3回して、3回とも相手の反応の向きが違う → コンセプト(工程3)に戻る
- 作っている途中で、渡す相手が毎週変わる → 顧客(工程4)に戻る
- 出したのに、誰も2回目を使わない → 作り方ではなく、確かめる問いに戻る
- 数字は取れているが、どこからが合格かを言えない → 合格ラインを置き直す
戻ることを避けようとすると、外れた前提を抱えたまま先の工程に進むことになります。クリスタルロードのCalmspotは、自社開発で見通しが立たなくなった状態から引き継いで開発したもので、当初200〜300万円と見ていた予算に対して開発コストは50%以上削減できたと依頼者は話しています(依頼者談)。期間は3〜4ヶ月でした。戻るのは遅れではなく、手戻りを小さくする動きです。
個人・少人数で進めるときの読み替え
工程の数は、一人でも会社でも変わりません。変わるのは、同時に持てる本数と、判定してくれる人の有無です。
同時に持てるのは1本まで。 工程2の「1つに決める」は、一人で進める場合はさらに重くなります。2本持つと、どちらの工程にいるのかが自分でも分からなくなります。
期間は伸ばさず、区切りを短くする。 使える時間が少ないぶん、全体の期間は長くなりがちです。そこで工程の期限まで延ばすと、確かめる前に気力が尽きます。Prompt Labが構想からベータ版公開まで3週間で区切っているように、期限を先に置くことが、入れる機能を削る力になります。
判定してくれる人を、外に1人置く。 一人だと、合格ラインを自分で甘くできてしまいます。ハコブネでは月額4,980円(税込・入会金や解約金は0円)でDiscord、10分の個別メンタリング、定期報告会、イベントを回しています。1DAY新規事業立ち上げイベントは会員が参加費無料・一般3,000円で、次回は2026年9月19日と10月18日です。ランチ会は月1〜2回、1回60〜90分で、2026年9月4日は7名(うち2名はメンバー以外で、事業開発が本職の人と社内新規事業の担当者)でした。
社内の新規事業担当も、条件は近い。 人数がいても、実際に手を動かすのが一人なら、判断は個人と同じ形になります。違うのは、進む判断を上の人に取りに行く必要があることです。この決め方については、プロセスの記事で分けて書いています。
よくある質問5選
質問1新規事業の立ち上げは、全体でどのくらいかかりますか?
内容によって差が大きいので、全体の期間を先に決めるより工程ごとに区切るほうが実務的です。公開されている事例では、開発だけを見てもベータ版まで2週間のものから開発10ヶ月のものまであります。ハコブネのゼミは3ヶ月・全6回で、現状整理から集客設計までを一周する設計になっています。
質問2工程を飛ばしてもいいですか?
飛ばせるのは、その工程で決めるはずだったことが、すでに決まっている場合だけです。たとえば既存の顧客からの依頼で始まる事業なら、工程4の相手探しは短くなります。ただ、決まっていないのに飛ばすと、作ったあとに戻ることになります。
質問3作り始めるタイミングはどこですか?
この流れでは5番目です。目安は、同じ一文を複数の相手に当てて、返ってくる反応の向きが揃ったときです。反応がばらついている段階で作ると、何を直せばいいのかが分からなくなります。
質問4改善がリリースより前にあるのはなぜですか?
作ったものを一度動かして、直してから出すという順番だからです。出す前に合格ラインを置いておくと、直す場所も判断できます。BENLOGが検証前に継続率などの目標値を置いていたのがその例です。
質問5一人で進めていて、いまどの工程にいるか分からなくなりました。
直近1週間で「決めたこと」を書き出してみてください。決めた対象が、立ち上げる案なのか、届ける相手なのか、作る順番なのかで、いる工程が分かります。何も決まっていないなら、決めるべき問いが大きすぎる可能性があります。
この記事で触れた事例の出典
- 新規事業立ち上げゼミ
- ハッカソン/BENLOG(2026年8月23日・目白台)
- 一番飯店 様 インタビュー(株式会社Walkers)
- Prompt Lab(開発実績・株式会社Walkers)
- 山本製作所 様 インタビュー(株式会社Walkers)
- ツナガル 様 インタビュー(高福合同会社・株式会社Walkers)
- One Company 様 インタビュー(株式会社Walkers)
- 台湾トーク 様 インタビュー(株式会社Walkers)
- 京都大学 KULALIS 様 インタビュー(株式会社Walkers)
- サカチムプラス 様 インタビュー(株式会社Walkers)
- UPSTA Japan 様 インタビュー(ApoLink・株式会社Walkers)
- クリスタルロード 様 インタビュー(Calmspot・株式会社Walkers)
- 株式会社マックス 様 インタビュー(株式会社Walkers)
- HP Answer(サービス紹介・株式会社Walkers)
- Tech Studio(開発実績・株式会社Walkers)
- ランチ会レポート(池袋・2026年9月)
最終更新:2026年9月16日
