この記事の内容
事業開発と営業は、どちらも売上に向かう仕事なので、外から見ると似ています。ただ、日々やっている判断はかなり違います。営業はすでにある売り方を回す仕事で、事業開発はその売り方そのものを作る仕事です。 この違いは、目的、時間軸、評価のされ方、必要な能力の四つに出ます。この記事では、その四つで並べて比べたうえで、自分の会社や自分の事業にいまどちらが要るのかを判断できるところまで整理します。最後に、一人で両方を兼ねるときに何が落ちやすいかにも触れます。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
違いは「回す」か「作る」か
まず、いちばん大きな違いから置きます。営業に渡されているのは、商品、価格、売る相手の条件、話し方の型です。決まっているものを、目の前の相手に届けて、数字にするのが仕事です。事業開発に渡されているのは、それらがまだ無い状態です。
言い換えると、営業は「この人に売れるか」を問い、事業開発は「そもそも誰に売るのか」を問います。 同じ商談に同席していても、見ているものが違います。営業は今日の相手が買うかどうかを見ていて、事業開発はその相手が断った理由が、次の100人にも当てはまるかどうかを見ています。
この違いは、断られたときの反応にいちばん出ます。営業にとって、断られることは避けたい結果です。事業開発にとっては、断られた理由が材料になります。どちらが偉いという話ではなく、集めているものが違います。
目的の違い:今期の数字か、来期以降の形か
営業の目的は、決まった期間のなかで数字を作ることです。四半期や月次で締められ、達成か未達かがはっきりします。事業開発の目的は、来期以降に立つ形を作ることです。今期の売上はゼロでも、成立していることがあります。
この違いを混ぜると、両方が苦しくなります。立ち上げの担当に今期の売上目標を持たせると、確かめるべきことを飛ばして、売りやすい既存商品を売りに行くことになりがちです。立ち上げの仕事に短期の売上目標を乗せると、立ち上げが止まる方向に力がかかります。
反応の読み方にも差が出ます。株式会社Walkers代表の渡邊敦司は、検討中の新規事業に競合がいたときの反応として、普通の人は「やっぱやめとくか」となるがBizDevは「やったー市場がある」となる、というポストを公開しています。営業の視点では競合は目の前の障害ですが、事業開発の視点ではお金が動いている証拠として読めます。同じ事実を、別の目的から見ているということです。
時間軸の違い:週で見るか、四半期で見るか
営業は週単位で回ります。今週のアポイント数、今月の受注、四半期の着地。短い周期で見ることで、動きを修正できます。
事業開発は、それより長い周期で回ります。UPSTA JapanのApoLinkは、開発が2ヶ月半、リリースから1ヶ月半で会員200人弱という立ち上がりでした。テストマーケでマッチング機能の反応が良かったため、開発の途中で作る順番を組み替えています。この「順番を組み替える」という判断は、週次の数字を見ているだけでは出てきません。
ただし、長い周期で回るからといって、締め切りが無くていいわけではありません。立ち上げの仕事は、締め切りが無いと無限に延びます。ハコブネが2026年8月23日に東京・目白台とオンラインで開いたハッカソンでは、開発が初めての人や事業を持っていない人を含む参加者全員が、4時間弱でプロダクトを完成させて発表しました(生まれたのは5本。参加者3本+運営2本の少人数の回で、アンケートに答えた3名の満足度は全員10点満点、受賞したのは開発が未経験の参加者です)。長い周期の仕事にも、短い締め切りを内側に置くことはできます。
評価のされ方の違い:達成率か、決まったことの数か
営業の評価は比較的はっきりしています。目標に対する達成率、受注件数、単価、継続率。数字が並ぶので、良し悪しを説明しやすいです。
事業開発の評価は、立ち上げの段階では売上で測れません。代わりに使えるのは、確かめた仮説の数と、決まったことの数です。誰に売るかが決まった、価格の取り方が決まった、やらないと決めた。「何も作っていないが、三つの選択肢を消した」という月は、事業開発としては前に進んでいます。
ここが噛み合わないと、組織の側が評価を間違えます。売上が立たないから成果が無い、と見てしまうと、担当者は短期で数字が出る動きに寄ります。立ち上げを任せる側は、何をもって前進とするかを先に決めておく必要があります。数字の話は、出したあとの段階に入ってから継続率や獲得単価に切り替えるほうが、実態に合います。
必要な能力の違い
両方に要るものもありますが、比重がはっきり違います。
- 営業に効くもの:相手の状況を短時間で掴む力、断られてから次に進む速度、約束を守り切る運用、数字の管理
- 事業開発に効くもの:情報を集めて構造にする力、選択肢を減らす判断、作れる人や売れる人を巻き込む力、答えが無い状態に耐える力
重なるのは「人の話を聞く力」ですが、聞いている目的が違います。営業は買う理由を探して聞き、事業開発は断る理由を探して聞きます。事業開発の人がヒアリングで「いいですね」しか集まらないなら、聞き方が営業側に寄っている合図です。
現場の側から事業開発に入る道もあります。1952年創業・スタッフ4名の一番飯店は、紙伝票とトランシーバーでの運用をノーコードのオーダーシステムに置き換えました。ベータ版までは2週間、オーダーにかかる労力は約50%削減されたと依頼者は話しています(依頼者の体感)。何が面倒かを言葉にできることは、それ自体が事業開発に効く能力です。
どちらが要る場面か
判断はそれほど難しくありません。売り方が決まっていて、売る先の在庫があるなら営業が要ります。問い合わせは来るのに成約しない、リストはあるのに手が足りない、という状態は営業の課題です。
売り方が決まっていない、あるいは決まっていたものが効かなくなったなら、事業開発が要ります。売り先が尽きた、単価が下がり続けている、受注はあるが続かない、という状態は、営業の努力量ではなく、売り方の設計を疑うほうが早いです。 人を増やしても、同じ形を速く回すだけになります。
方向を組み直した例もあります。個人が運営する「サカチム」の有料版であるサカチムプラスは、当初は検索サイトの強化を想定していましたが、対話を重ねるなかで「チーム専用ホームページの質」に方向を変え、100種類の配色を実装しました(既存のサカチムには164チームが登録)。売り方そのものを決め直す判断は、営業の工程の中では出てきません。
兼ねるときに落ちるもの
小さな会社では、同じ人が両方をやることのほうが普通です。兼ねること自体は問題ありませんが、落ちるものは決まっています。締め切りがある営業の仕事は必ず残り、締め切りが無い事業開発の仕事から先に消えます。
対処は、予定表の側でやるのが現実的です。事業開発に使う時間を、商談と同じ扱いで先に入れてしまう。そのうえで、その時間に何を決めるかを一行で書いておく。「考える」ではなく「誰に売るかを一つに絞る」まで書けていると、埋まりにくくなります。
外の人と話す時間も、意識して作るほうがいいです。ハコブネのランチ会は月1〜2回、1回60〜90分で開いていて、2026年9月4日の回は7名でした。うち2名はメンバー以外で、事業開発が本職の人と、社内新規事業の担当者です。兼務している人ほど、同じ工程にいる人と話す機会が減りやすいところがあります。
よくある質問5選
質問1営業から事業開発に移ることはできますか?
移る人は珍しくありません。営業で溜まっているもの、とくに断られた理由の蓄積は、事業開発でそのまま材料になります。移るときに変えるのは、買う理由を探す聞き方から、断る理由を探す聞き方への切り替えです。
質問2事業開発は営業をしないのですか?
します。立ち上げの段階では、最初の数人に売るところまでを自分でやることが多いです。ただ、目的が数字を作ることではなく、売れるかどうかを確かめることにあるので、同じ行動でも見ている結果が違います。
質問3小さい会社では、どちらを先に置くべきですか?
売り方が決まっているかどうかで決まります。決まっていて手が足りないなら営業、決まっていないか効かなくなっているなら事業開発です。効かない売り方のまま営業を増やすと、費用だけが先に増えます。
質問4社内で事業開発の評価指標を作るとしたら、何がいいですか?
立ち上げの段階では、確かめた仮説の数と、決めたこと・やめたことの数を置くのが現実的です。合格ラインを先に決めておき、達したら次の段階で継続率や獲得単価に切り替える、という二段構えにすると噛み合いやすくなります。
質問5一人で両方やっていて、事業開発が進みません。
時間の問題であることが多いです。締め切りのある仕事が先に埋まるので、事業開発の時間を商談と同じ扱いで予定に入れてください。そのうえで、その枠で何を決めるのかを一行で書いておくと、埋め戻されにくくなります。
この記事で触れた事例の出典
最終更新:2026年9月16日
