この記事の内容
受託の単価を上げたいと思っても、取引先に切り出すのは気が重いものです。長く付き合ってきた相手ほど言いにくく、結局は前と同じ金額で見積もりを出してしまう。そのぶん案件の数を増やして売上を保とうとして、気づけば予定表が埋まっている。受託で食べている人なら、身に覚えのある流れかもしれません。
AIで作る作業が速く安くなると、時間を売る受託は作業単位の値段が下がりやすくなります。作業の数で売上を保つやり方は、この先さらに苦しくなる可能性が高いと考えています。
この記事では、受託の単価を上げる方法を、値上げの伝え方、案件の選び方、定型サービス化の3つに分けて紹介します。ただし目的は売上を増やすことだけではありません。受託の単価を上げる一番の目的は、同じ売上をより短い時間で得て、自社サービスに使う時間を作ることです。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
単価を上げる目的を「自社の時間」に置く

値上げの話になると、多くの人は「いくら増えるか」を考えます。もちろん収入が増えるのは大事ですが、その考え方のままだと、値上げで得た余裕に別の案件を足してしまいがちです。
ここでは考え方を一つずらします。単価が上がった分だけ案件の数や作業時間を減らし、空いた時間を自社サービスの枠に回すのです。売上を保ったまま受託の時間を減らせたら、その値上げは成功だと考えます。
時間を売る受託には、働ける時間がそのまま売上の天井になるという限界があります。その構造については受託ビジネスの限界と、時間を売る以外の収入の柱の作り方で詳しく書いています。単価を上げるのは、この天井の下で自社の柱を育てる時間を確保するための手段です。
値上げの前に、案件ごとの実際の時間を確かめる

値上げを切り出す前に、自分がどの案件にどれだけ時間を使っているかを確かめます。見積もりのときに想定した時間と、実際にかかった時間は、たいていずれています。
実働の時間を案件ごとに並べる
直近の数件について、制作の時間だけでなく、打ち合わせ、チャットの返信、修正対応、請求の手続きまで含めた時間を書き出します。受け取った金額をその時間で割ると、案件ごとの実質の時間単価が出ます。
並べてみると、金額が大きい案件ほど割に合うとは限らないと分かります。修正の往復が多い案件や、仕様が後から何度も変わる案件は、金額のわりに時間単価が低くなりやすいのです。
見積もりに入っていない作業を見つける
時間がずれる原因になりやすいのが、見積もりに書いていない作業です。素材の催促、取引先の社内確認待ちの間の調整、公開後の細かな更新などがよくある例です。こうした作業を見積もりの項目として書き出すだけでも、次の見積もりから金額の根拠を説明しやすくなります。
値上げの伝え方

値上げは、伝える時期と理由の説明で受け止められ方が変わります。取引先にとって大事なのは、金額が上がる理由に納得できるかどうかです。
伝える時期は契約更新と新しい案件の見積もり
進行中の案件の途中で金額を変えると、取引先は予算を組み直さなければならず、関係にひびが入りやすくなります。伝えるのは、契約の更新時か、新しい案件の見積もりを出すときにします。更新より前に余裕をもって予告しておくと、相手も社内で調整する時間を取れます。
理由は作業内容の変化で説明する
「物価が上がったので」だけでは、相手は判断しにくいものです。それより、担当している作業の範囲がどう変わったか、どんな品質を保つためにどんな作業が増えたかを説明します。棚卸しで見つけた「見積もりに入っていない作業」は、そのまま説明の材料になります。
値上げの理由は自分の事情ではなく、取引先が受け取っているものの中身で説明します。
伝える文面の例
たとえば、契約更新の前に次のような形で伝えます。「現在お引き受けしている更新作業は、当初の契約時から、画像の調整や公開後の確認まで範囲が広がっています。次回の契約から、この範囲を含めた金額に改めさせていただけないでしょうか。範囲を当初の内容に戻す形でも対応できます」。
文面では、謝りすぎないことも大事です。値上げは悪いことではなく、作業の中身に合わせて金額を直す話です。相手が判断しやすいように、変更後の金額と開始時期をはっきり書きます。
金額だけでなく選択肢を添える
値上げを伝えるときは、「今の金額で範囲を減らす」「範囲は同じで金額を上げる」のように、取引先が選べる形で示します。修正回数の上限を決める、公開後の更新を別の月額にする、といった分け方もあります。相手が自分で選べると、一方的に値上げされたという印象が和らぎます。
案件の選び方

単価を上げても、手間のかかる案件を全部抱えたままでは時間は空きません。続ける案件と見直す案件を分けます。
見直す候補になりやすい3つの特徴
棚卸しの結果から、次のような案件を見直しの候補にします。
- 実質の時間単価がほかの案件より明らかに低い
- 連絡が不規則で、自社の枠や家族の時間に食い込みやすい
- 毎回ゼロからの作業になり、経験が次の案件に積み上がらない
反対に、同じ業界の案件が続くもの、取引先の業務を深く知れるものは、自社サービスの種が見つかりやすい案件です。受託で何度も頼まれる作業がなぜプロダクトの種になるかは、受託で何度も頼まれる作業は、プロダクトの種になる|見つけ方と3つの判定で整理しています。
新しい問い合わせで最初に聞くこと
新しい依頼を受けるときは、金額の話の前に、予算の目安、公開したい時期、社内で誰が最終的に決めるのか、過去に同じ依頼を外に出したことがあるかを聞きます。決める人がはっきりしない案件や、時期だけが極端に急ぎの案件は、修正の往復が増えやすくなります。
受ける前の質問で案件を選べると、引き受けたあとに条件を変える交渉そのものが減ります。
見直すときは断る前に条件を変える
見直す案件をいきなり断る必要はありません。まず範囲や金額、連絡の取り方の条件を変える提案をして、それでも合わなければ、信頼できる同業者を紹介する方法もあります。急に手を離すと取引先が困るので、引き継ぎの時間も見込んでおきます。
何度も頼まれる作業を定型サービスにする

単価を上げるもう一つの方法は、毎回の見積もりをやめて、決まった内容を決まった金額で提供する定型サービスにすることです。
メニューにすると見積もりと説明の時間が減る
「LPの初稿と2回の修正までで◯円」「月1回の更新と報告で月額◯円」のように、範囲と金額を先に決めたメニューを作ります。取引先は内容が分かりやすく、こちらは見積もりを毎回作る手間が減ります。範囲の外の依頼は追加料金として扱えるので、作業が際限なく膨らむのも防げます。
AIで作業を短くできれば、同じメニューの金額のまま、かかる時間を減らせます。時間で値段をつける見積もりでは作業が速くなると請求額も減りますが、内容で値段をつけるメニューなら、速くなった分が自分の時間として残ります。
メニューを作る手順
メニューは、次の順番で作ると迷いにくくなります。まず、直近の案件から同じ内容の依頼を3件ほど選び、それぞれで実際にやった作業を並べます。次に、どの案件でも共通していた作業を基本の範囲にし、案件によって違った作業を追加の項目に分けます。最後に、基本の範囲にかかった時間と、自社の枠に回したい時間から金額を決めます。
メニューは一度作って終わりではありません。何件か受けてみて、追加の項目ばかり頼まれるなら、それを基本の範囲に入れて金額を見直します。メニューを直す作業そのものが、何を頼まれ、何に払ってもらえるかを確かめる機会になります。
定型化は自社プロダクトの下書きになる
定型サービスは、受託と自社プロダクトのあいだにある段階でもあります。何を含めて何を含めないか、いくらなら頼まれるかを、実際の取引で確かめられるからです。定型サービスで繰り返し売れた内容は、自社プロダクトとして形にするときの設計図になります。
浮いた時間の使い道を先に決める

単価が上がり、案件が整理されて時間が空いたら、その時間を何に使うかを先に決めておきます。決めておかないと、空いた時間には新しい受託の相談が入り込みます。
空いた時間を把握するには、値上げや案件の整理をする前と後で、受託に使った時間を同じ方法で記録して比べます。売上がほぼ同じで受託の時間が減っていれば、その差が自社に回せる時間です。差が出ていなければ、値上げした分だけ別の作業が増えていないかを見直します。
おすすめは、週4時間のように枠の大きさを決めて、予定表に先に入れることです。具体的な時間の取り方は、受託が忙しくて自社サービスが進まない人の時間管理術|週4時間を先に確保するで紹介しています。
空いた時間で最初にやることとしては、単価を見直した取引先そのものに、自社サービスの試作を見せる方法もあります。値上げの交渉で取引先の課題を細かく聞いたあとなら、相手が何に困っているかがよく分かっているはずです。切り出し方は既存顧客に自社サービスを提案する方法|受託の関係を壊さない切り出し方にまとめています。
よくある質問5選

質問1値上げを伝えたら取引先が離れてしまいませんか?
離れる可能性はゼロではありません。だからこそ、契約更新のタイミングで、理由と選択肢を添えて伝えます。仮に離れた場合でも、その時間を自社サービスや条件の合う案件に回せると考えておくと、交渉で焦らずに済みます。
質問2長く付き合っている取引先ほど言いにくいのですが。
長く付き合っているからこそ、担当している作業の範囲が最初の契約から広がっていることが多いものです。最初の契約と今の作業内容を並べて見せると、話を切り出しやすくなります。
質問3相場が分からず、いくらにすればよいか決められません。
相場より先に、自分の実質の時間単価と、自社サービスに回したい時間から逆算して考えます。今の売上を何時間で得たいかを決めれば、必要な単価の目安が出ます。
質問4定型サービスにすると、細かな要望に応えられなくなりませんか?
メニューの外の要望は追加の作業として受ければ、応えることはできます。基本の範囲を決めておくことで、どこからが追加なのかを取引先と共有しやすくなります。
質問5値上げと案件の整理、どちらを先にやるべきですか?
まず案件ごとの実際の時間を確かめ、そのうえで値上げを伝える案件と見直す案件を同時に決めるのがおすすめです。どちらも棚卸しの結果をもとに判断できます。
次の契約更新で1件だけ試す
最初から全部の取引先に値上げを伝える必要はありません。次に契約更新が来る1件を選び、実際の時間を書き出して、理由と選択肢を添えた見積もりを出すところから始めます。うまくいけば、空いた時間を自社の枠として予定表に入れます。
値上げの伝え方や案件の整理を、同じ立場の人と相談しながら進めたい方もいると思います。受託と自社の新規事業を並行してきた株式会社Walkersが運営するハコブネでは、受託業者が自社サービスを持つまでの進め方を、メンタリングや交流会で一緒に考えています。入会を前提にしないオンラインの無料相談会もあるので、受託の時間の使い方を見直したい方は気軽に申し込んでください。
この記事で触れた事例の出典
最終更新:2026年10月21日
