この記事の内容
数人で回している制作会社が新規事業を考えるとき、いちばん気になるのは受託の売上です。代表が営業も制作の確認も担っている会社では、代表が新規事業に時間を使った分だけ、受託の案件が減ったり納期が遅れたりしやすくなります。スタッフを新規事業に回せば、今度は制作の手が足りなくなります。
それでも、AIで初稿づくりやコーディングが速くなり、作業時間で見積もる受託は単価が下がりやすくなっています。受託が回っている今のうちに、自社サービスという別の柱を作っておきたい、と考えている代表の方も多いはずです。
この記事では、少人数の制作会社が受託の売上を保ったまま、新規事業を1本出すまでの進め方を順に紹介します。守る売上の線の決め方、人と時間の割り当て方、テーマの選び方、既存の取引先での確かめ方、リリース前の点検までを扱います。制作会社の新規事業は、受託を削って始めるのではなく、受託で守る線を先に決めてから始めます。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
制作会社の新規事業で受託の売上が落ちやすい場面

先に、少人数の制作会社で新規事業が受託の売上を食ってしまう場面を確認しておきます。どこで落ちるかが分かれば、守り方も決められます。
代表が新規事業に張りつく
新規事業の構想を持っているのは、たいてい代表です。代表が新規事業にかかりきりになると、新しい案件の相談に返事が遅れ、見積もりの提出も後回しになります。少人数の制作会社では、代表の営業が止まると数か月後の売上に響きます。
いちばん手の速いスタッフを抜く
新規事業を早く形にしたくて、いちばん手の速いスタッフを専任にすると、受託の納期が厳しくなります。修正対応が遅れれば、取引先との関係にも影響します。
繁忙期に新規事業が止まる
逆に、受託の繁忙期が来ると新規事業の作業が丸ごと止まり、閑散期に再開する頃には何を確かめていたのかを忘れている、という形もよくあります。止まっては再開するうちに、試作が出ないまま終わってしまうこともあります。
受託で守る売上の線と、人と時間の割り当てを決める

こうした場面を防ぐために、新規事業を始める前に3つを決めます。
受託で守る売上の線を数字で決める
まず、受託で毎月最低いくらの売上を守るかを決めます。人件費や家賃などの固定費を基準にすると決めやすくなります。この線を下回りそうになったら、新規事業の時間を減らして受託に戻る、というルールにしておけば、会社が傾く前に気づけます。決めた線はスタッフにも伝えておきます。新規事業を始めても受託の仕事は守る、と代表が先に言っておくと、スタッフも安心して受託と新規事業の両方に関われます。
失ってよい時間とお金の上限を決める
ハコブネ式の原則に「上限を決めて大胆に」があります。新規事業に使ってよい時間とお金の上限を先に決め、その範囲の中では思い切って試します。上限が決まっていないと、代表もスタッフも「どこまでやればいいのか」が分からず、受託との間で迷い続けることになります。
人と時間を小さく割り当てる
人を丸ごと新規事業に回すのではなく、週の中に自社の枠を先に押さえます。たとえば、担当者を1人決めて週4時間の枠を取り、代表は週1回の確認だけに関わる、という形です。AIで受託の作業を短くした分や、手が回らない案件を付き合いのある外部の制作者に回した分を、この枠に充てます。受託が忙しいときの時間の作り方は、受託が忙しくて自社サービスが進まない人の時間管理術|週4時間を先に確保するで詳しく扱っています。
担当者と枠を決めずに「手が空いたらやる」で始めた新規事業は、繁忙期のたびに止まりやすくなります。
新規事業のテーマは受託の中から選ぶ

守る線と枠が決まったら、何を作るかを決めます。制作会社の強みは、すでに取引先がいて、その業務の中身を知っていることです。
取引先の業種と、繰り返し頼まれた作業を並べる
過去の案件を一覧にし、取引先の業種と、頼まれた作業を並べます。同じ業種の取引先が多い、同じ種類の更新や機能追加を何度も頼まれている、といった偏りが見えたら、そこが新規事業のテーマの候補です。何度も頼まれた作業は、お金を払う人がいる証拠になります。
一覧づくりは、代表だけでなく制作を担当しているスタッフにも手伝ってもらいます。取引先からの細かな修正依頼や、打ち合わせで出た愚痴は、実際に手を動かしているスタッフのほうがよく覚えているからです。
競合がいることを怖がりすぎない
候補を調べると、似たサービスがすでにあることが多いはずです。ハコブネを運営する株式会社Walkersの代表は、Xで「競合がいるのは市場があるということ」と発信しています。競合がいる領域でも、自社の取引先の業種に合わせた形にすれば、入る余地はあります。
複数の新規事業を並行してきた会社の例
Walkersは、AI駆動開発・ノーコード開発のシステム開発会社として開発の仕事を続けながら、複数の自社事業を進めています。トップページでは「Walkersが進める新規事業」として、草バスケの募集プラットフォームやAIホームページ制作サービスなどを並べています。どの事業も売上やユーザー数は公開されていませんが、開発の仕事と自社事業を同じ会社の中で並べて進めている一例です。受託だけの会社がどんな軸で自社事業を選ぶかは、受託だけの会社がAI時代に始める自社事業の選び方で整理しています。
既存の取引先と動く試作で確かめる

テーマが決まったら、いきなり完成品を作らず、動く試作を作って既存の取引先に見せます。
作る前に確かめる順番を決める
Walkersが新規事業開発支援で使っている進め方は、6つのステップに分かれています。調査とペルソナの設計、コンセプトとビジネスモデルの設計、ビジュアルと言葉の統一、LPや資料の制作、小規模な広告テストで反応を数値で確かめる工程を経て、検証を通ったものだけをMVP開発に進めます。
制作会社にとって、この順番は取り組みやすいはずです。LPや資料を作るのは本業そのものなので、作る前に反応を確かめる工程を、自社の得意な技術で進められます。
受託の延長として試作を提案する
試作ができたら、付き合いのある取引先に「普段の制作とは別に、こういうものを作ってみました」と見せます。言葉で「こんなサービスがあったら使いますか」と聞くより、動くものを見せたほうが、取引先は具体的な反応を返してくれます。
反応がよければ、少額でも料金をいただく有料モニターとして使ってもらいます。無料で配ると、本当にお金を払う価値があるかが分かりません。有料モニターの価格の決め方や約束することは、有料モニターの集め方と価格の決め方|正規リリース前に実績を作るで扱っています。
既存の取引先は、新規事業の最初のお客さんであり、いちばん率直な意見をくれる相手です。受託で信頼を積んできた制作会社だからこそ、この頼み方ができます。
反応が薄かったときの扱いを決めておく
取引先に見せても反応が薄い場合は、テーマを変えるか、見せ方を変えるかを判断します。どちらにするかは、始める前に決めた時間とお金の上限に照らして決めます。上限に余裕があれば、取引先の意見をもとに試作を直してもう一度見せ、上限に近ければいったん止めます。
止めた場合でも、作った試作やLPは受託の提案資料や実績として使えます。新規事業で試した技術を、次の受託案件の見積もりに生かせることもあります。受託と並行している制作会社は、新規事業が止まっても会社そのものは止まりません。
リリース前の点検と、受託の比率の見直し

有料モニターの実績が出たら、正規リリースの準備に入ります。
事業・技術・契約・運用の4つを点検する
ハコブネでは、リリース前の点検を事業・技術・契約・運用の4つに分けています。価格と売り方は決まっているか、AIのAPI利用料に上限をかけているか、利用規約や特定商取引法の表記を確認したか、問い合わせに誰が答えるか、といった点です。受託では取引先が持っていた責任を、自社サービスでは自社で持つことになります。法律に関わる点は、弁護士など専門家に確認してください。点検項目の一覧は、AIで作ったプロダクトをリリースする前のチェックリスト|事業・技術・契約・運用にまとめています。
受託の比率は自社の売上を見て下げる
ハコブネでは、受託から自社プロダクトへの移り方を、受託、受託+有料モニター、正規リリース、自社プロダクトの4段階で考えています。受託の比率は、ほぼ100%から9割、5〜7割、5割以下へと下がっていくのが目安です。あくまで目安なので、会社の固定費や人員に合わせて決めてください。
制作会社の場合、受託の比率を下げると、スタッフの仕事の中身も変わります。受託を減らすのは、自社サービスの売上が守る線を補えるようになってからにします。
毎月の数字を社内で共有する
新規事業の進み具合は、受託の売上と並べて毎月社内で共有します。有料モニターの人数、使ってもらえている頻度、もらった意見などです。数字が見えていれば、スタッフも新規事業を「代表の趣味」ではなく会社の仕事として受け止めやすくなります。
よくある質問5選

質問1少人数の制作会社でも、新規事業に人を割けますか?
人を丸ごと割く必要はありません。担当者を1人決め、週4時間などの枠を先に押さえる形なら、受託の体制を大きく崩さずに始められます。
質問2新規事業のテーマは、制作とまったく関係のない分野でもよいですか?
関係のない分野も選べますが、最初の1本は受託の取引先や業務に近いテーマのほうが進めやすくなります。業務の中身を知っていて、最初のお客さんになってくれる相手がすでにいるからです。
質問3取引先に新規事業を見せると、受託の関係が悪くなりませんか?
受託の延長として「こういう形も作ってみました」と見せ、断られても受託の仕事は変わらないと伝えれば、関係を損ねにくくなります。押し売りにならないよう、使うかどうかは相手に決めてもらいます。
質問4補助金を使って新規事業を始めるべきですか?
補助金を前提に計画を立てると、採択されなかったときに止まってしまいます。使う場合も、自社の資金で回る計画を先に作り、制度の条件は最新の公募要領で確認してください。
質問5新規事業がうまくいかなかったら、使った時間は無駄になりますか?
無駄になりにくいのが、制作会社の新規事業のよいところです。作った試作やLP、ヒアリングの結果は、受託の提案や実績、次の案件の部品として使えます。
守る売上の線を決めるところから始める
最初の一歩として、受託で毎月守る売上の線と、新規事業に使ってよい時間とお金の上限を、数字で書き出してみてください。そのうえで担当者と週の枠を決めれば、繁忙期でも止まらない形で新規事業を始められます。受託で積んできた取引先との関係と制作の技術は、自社サービスを出すときに間違いなくプラスに働きます。
ハコブネは、受託と自社の新規事業を並行してきた株式会社Walkersが運営する、受託業者のためのAI×事業開発コミュニティです。テーマの選び方から有料モニターの集め方、リリース前の点検まで、受託の売上を保ちながら自社サービスを出す進め方を一緒に考えています。入会を前提にしない無料相談会もオンラインで開いていますので、自社の受託のどこに新規事業の種があるかを話してみたい方はお気軽にご参加ください。
最終更新:2026年10月21日
