この記事の内容
業務委託の案件で週の大半が埋まっていて、空いた時間に自社サービスを作りたいと思いながら、なかなか形にならない。フリーランスエンジニアとして働く人の中には、こうした状態が続いている人も多いのではないでしょうか。作る技術はあるのに、何を作るかが決まらない、作り始めても案件の山場で止まる、という悩みです。
この記事では、フリーランスエンジニアが案件と並行して自社サービスを1本出すまでの手順を、時間の取り方、種の見つけ方、動く試作、有料モニター、リリース前の点検、正規リリースの順に説明します。
AIでコードを書く速さが上がるほど、実装の時間で請求する案件は単価が下がりやすくなります。案件をやめる必要はありませんが、案件が順調な今のうちに自分のサービスを持っておくと、収入の柱を1本増やせます。自社サービスづくりは案件を辞めてから始めるものではなく、案件を続けながら小さく出すものです。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
フリーランスエンジニアの自社サービスが止まる3つの理由

手順に入る前に、なぜ途中で止まりやすいのかを確認しておきます。止まる理由が分かれば、手順のどこで手当てすればよいかも分かります。
案件の山場が来るたびに後回しになる
リリース前の追い込みや障害対応が入ると、自社サービスの作業はまず後回しにされます。空いた時間にやる、という決め方では、空く時間がなかなか来ません。
作り込んでから見せようとする
エンジニアは作る力があるぶん、ログイン、決済、管理画面までそろえてから人に見せようとしがちです。作り込むほど時間がかかり、見せたときに「欲しいものと違った」と分かると、それまでの作業がまとめて無駄になりやすくなります。
誰に売るかが決まっていない
技術的に面白いものを作っても、お金を払う人が見えていなければ売上にはなりません。案件では取引先が要件を持ってきてくれますが、自社サービスでは要件を決めるのも、お客さんを探すのも自分です。
ただ、ここで悲観する必要はありません。案件で取引先の要件を聞き取り、曖昧な依頼を仕様に落としてきた経験は、自社サービスの顧客の話を聞くときにもそのまま使えます。フリーランスエンジニアは、作る力と要件を聞く力の両方を案件の中で鍛えてきた分、自社サービスを始めるうえで有利な立場にいます。
手順1 案件と並行する時間を先に押さえる

最初の手順は、自社サービスの作業時間を週の予定に先に入れることです。たとえば週4時間を、案件の山場でも動かさない枠として押さえます。平日の朝に1時間ずつ、土曜の午前にまとめて、など、自分の働き方で守りやすい置き方を選んでください。
AIで案件の作業を短くする
枠を作る元手は、案件の作業時間を短くすることです。テストコードの下書き、定型的な画面の実装、ドキュメントの整理など、AIに任せやすい作業を案件の中で探してください。短くなった時間を、そのまま自社の枠に回します。
案件を選び、条件を見直す
稼働時間に比べてやり取りが極端に多い案件や、単価が見合わない案件は、契約更新のタイミングで条件を見直す候補にします。手が回らない案件は、信頼できるエンジニア仲間に回すという方法もあります。時間の作り方は、受託が忙しくて自社サービスが進まない人の時間管理術で詳しく書いています。
時間は余ったら使うものではなく、先に押さえて守るものだと決めておくと、自社サービスが案件に押し流されにくくなります。
手順2 案件の中から自社サービスの種を探す

次に、何を作るかを決めます。ハコブネ式の最初の原則は「材料は受託の中にある」です。フリーランスエンジニアは、複数の取引先の業務の中に入って仕事をしてきた分、ほかの人には見えにくい困りごとを知っています。
何度も作った機能と、何度も聞かれた相談を書き出す
過去の案件を振り返り、違う取引先で同じような機能を作ったことはないか、同じ相談を受けたことはないかを書き出します。CSVの取り込みと整形、権限ごとの画面の出し分け、外部サービスとのデータ連携など、案件をまたいで何度も出てくる作業が候補です。
種にしてよいかを3つの問いで判定する
書き出した候補は、次の3つで絞り込みます。
- 複数の取引先が、同じ困りごとを抱えているか
- その困りごとに、相手がすでにお金や時間を払っているか
- 売れなかったとしても、自分の案件の部品や提案に使えるか
3つ目は「売れなくても沈まない」という考え方です。作ったものが売れなくても、次の案件で部品として使えれば、かけた時間を回収できます。種の見つけ方は、受託で何度も頼まれる作業は、プロダクトの種になるで詳しく整理しています。
案件で作ったコードをそのまま使う場合は、契約で権利と秘密保持の範囲を必ず確認してください。取引先の業務知識やデータを使うときも同じです。判断に迷う点は弁護士など専門家に相談してください。
手順3 確かめることを1つに絞って、動く試作を作る

種が決まったら、いきなり完成品を作らずに、確かめることを1つに絞った試作を作ります。ハコブネ式の原則で言えば「動くもので聞く」です。
仮説と合格ラインを作る前に決める
ハコブネのハッカソンで運営が作った記録アプリ「BENLOG」は、確かめる仮説を「うんちを育てるためなら、人は毎日トイレを記録するのか」の一点に絞っていました。そのうえで、7日後の継続率40%、30日後20%、1日平均3.5件という合格ラインを、検証の前に目標値として置いています。いずれも実測の結果ではなく、作る前に決めた基準です。
数字の大きさより、作る前に「何がどうなれば続けるか」を決めておくことが大切です。合格ラインがないと、反応が微妙だったときに続けるかやめるかを決められません。
機能を削って、短い期間で出す
試作に入れる機能は、仮説を確かめるのに必要なものだけにします。ログインや決済は、最初は手作業や既存のサービスで代わりにできることも多いはずです。Walkersも自社のAIプロンプト活用サービス「Prompt Lab」を、MVPとして構想から3週間でベータ版リリースしています。
エンジニアが自社サービスで最初に削るべきなのは機能の数ではなく、作り込んでから見せようとする癖です。機能の削り方は、個人開発のMVPの作り方で詳しく説明しています。
手順4 既存の取引先から有料モニターを集める

試作ができたら、最初のお客さんを探します。新しく集客を始めるより、すでに付き合いのある取引先や、案件で知り合った担当者に見せるほうが早く反応をもらえます。
案件の延長として見せる
定例ミーティングのあとなどに、「別の現場でも同じ処理を何度も作ったので、ツールにしてみました。御社でも使えそうですか」と聞く程度で十分です。取引先はあなたの仕事ぶりを知っているので、話を聞いてもらいやすい相手です。
無料ではなく、有料モニターにする
使ってみたいと言ってもらえたら、正規の価格より下げた有料モニターとして使ってもらいます。無料にしないのは、お金を払ってでも使いたいかを確かめるためです。期間、価格、こちらが対応すること、感想や事例紹介をお願いするかどうかを、先に文章で決めておきます。
有料モニターで得た利用の記録と声が、正規リリースのときに説得力のある実績になります。集め方と価格の決め方は、有料モニターの集め方と価格の決め方で整理しています。
手順5 リリース前に4つの点検をする

有料モニターの反応を見て正規リリースに進む前に、事業・技術・契約・運用の4つを点検します。案件では取引先や他のメンバーが見てくれていた部分も、自社サービスでは自分で確認する必要があります。
- 事業:誰に、いくらで売るか。有料モニターの結果は合格ラインを超えたか
- 技術:APIキーをコードに直接書いていないか。AIのAPI利用料に上限を設定しているか。権限とバックアップは十分か
- 契約:利用規約とプライバシーポリシーはあるか。特定商取引法にもとづく表記が必要かどうか
- 運用:問い合わせの窓口、障害時の連絡方法、案件が忙しい週に誰が対応するか
契約や表記の要否は、サービスの内容によって変わります。判断に迷う点は専門家に確認してください。点検の項目は、AIで作ったプロダクトをリリースする前のチェックリストにまとめています。
手順6 正規リリース後に、案件との比率を見直す

正規リリースをしても、すぐに案件を減らす必要はありません。ハコブネでは、次のような4段階を目安にしています。
- 受託だけ:案件がほぼ100%
- 受託+有料モニター:案件は9割程度
- 正規リリース:案件は5〜7割程度
- 自社サービス:案件は5割以下
これはあくまで目安です。生活費と固定費、契約の更新時期によって、無理のない比率は変わります。案件を減らす量は、自社サービスの売上が実際に続けて入ってから決めるのが安全です。
あわせて、失ってよい時間とお金の上限も先に決めておきます。たとえば「この枠で半年続けて、合格ラインに届かなければ方向を変える」と決めておけば、迷う時間を減らせます。
よくある質問5選

質問1案件が忙しくて、週4時間も取れません。どうすればよいですか?
まずは週1〜2時間でも、予定表に先に入れて守ることから始めてください。そのうえで、AIで短くできる案件の作業を探し、浮いた時間を少しずつ自社の枠に回します。枠の大きさより、毎週続けることのほうが大切です。
質問2案件で作ったコードを、自社サービスに使ってもよいですか?
契約で成果物の権利がどちらにあるか、秘密保持の範囲がどうなっているかによって変わります。取引先の業務知識やデータを使う場合も同じです。契約書を確認し、判断に迷う場合は弁護士など専門家に相談してください。
質問3自社サービスのアイデアが思いつきません。
新しいアイデアを考えるより、過去の案件で何度も作った機能や、何度も受けた相談を書き出すほうが、種を見つけやすくなります。複数の取引先で同じ困りごとが出てくるところに、自社サービスの種があります。
質問4取引先に自社サービスを見せると、関係が悪くなりませんか?
案件の延長として「使えそうか意見がほしい」と見せる形なら、売り込みには見えにくくなります。断られても案件の関係は変えないと先に決めておけば、こちらも気軽に声をかけられます。
質問5どのくらい売れたら、案件を減らしてよいですか?
決まった基準はありません。自社サービスの売上が数か月続けて入り、生活費と固定費をまかなう見通しが立ってから、少しずつ案件の比率を下げるのが安全です。比率はあくまで目安として、自分の状況に合わせて決めてください。
今週、枠を押さえて種を3つ書き出す
最初の一歩は、来週の予定表に自社サービスの枠を入れることです。そのうえで、過去の案件で何度も作った機能と、何度も受けた相談を3つ書き出してください。3つの問いで1つに絞り、確かめることを1つ決めたら、動く試作に取りかかれます。フリーランスエンジニアとしてこの先どう備えるか、最初の顧客をどこで見つけるかは、フリーランスエンジニアの将来性で詳しく書いています。
ハコブネは、受託と自社の新規事業を並行してきた株式会社Walkersが運営する、受託業者のためのAI×事業開発コミュニティです。案件を続けながら自社サービスを1本出すまでを、Discordでの相談やオンライン交流会、東京でのハッカソンやランチ会で一緒に進めています。入会を前提にしない無料相談会もオンラインで開いていますので、何を作るか、どこから始めるか迷っている人は気軽に申し込んでください。
この記事で触れた事例の出典
最終更新:2026年10月21日
