この記事の内容
Web制作の受託は、案件があるうちは安定しています。ただ、繁忙期は夜まで修正対応に追われ、閑散期は次の案件を探す、という波から抜け出しにくい仕事でもあります。AIでコーディングや初稿づくりが速くなり、作業時間で値段をつけにくくなってきたと感じている人もいるはずです。
Web制作の脱受託を考えたとき、制作者が受託の延長で選べる道は、テンプレート、保守の定型サービス、SaaSの大きく3つです。どれも受託で身につけた技術と取引先との関係を使えますが、始めやすさ、売上が立つまでの時間、必要な準備はかなり違います。
この記事では、3つの道の始め方と向いている人、つまずきやすい点を比べます。そのうえで、受託の売上を保ったまま進める順番を紹介します。Web制作の脱受託は、受託をやめることから始めるのではなく、受託の横に小さな商品を1つ置くことから始めます。
この記事について
書いているのは、作る側です。ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託と自社事業で累計300件の開発に関わり、200社以上の事業づくりを支援してきました。監修は取締役の池田龍一です。
一般論ではなく、実際にやったことの中身で説明します。この記事に出てくる数字は、すべて公開済みの自社・支援先の事例から引いています。出典は記事の最後にまとめました。
Web制作の受託から抜け出したい理由を先に言葉にする

3つの道を選ぶ前に、なぜ受託から抜け出したいのかを書き出しておきます。理由によって、選ぶ道が変わるからです。
たとえば、繁忙期と閑散期の波をならしたいなら、毎月決まった売上が入る保守の定型サービスが合います。自分が動かなくても売れる商品がほしいなら、テンプレートが近い道です。取引先1社ごとの作業から離れて、多くの人に使われる仕組みを持ちたいなら、SaaSを目指すことになります。
ハコブネを運営する株式会社Walkersは、受託開発を続けてきた会社として「受託開発という事業領域は、AIで将来的に消えていく可能性が高い」と考えています。Web制作も同じで、作業時間を売る形は縮んでいく可能性が高い一方、受託で積んだ経験はどの道を選んでも材料になります。AIで制作のどの作業が短くなるかは、ホームページ制作の仕事はAIでなくなるのか|制作者が今から持つべき自社サービスで整理しています。
道1 テンプレートを商品にする

1つ目の道は、これまで作ってきたサイトの構成やデザインを、テンプレートとして販売する方法です。
テンプレートの始め方
まず、過去の案件の中から、構成がよく似ていたものを3つほど並べます。同じ業種の案件や、同じ目的のLPが続いていれば、共通する部分がテンプレートの骨格になります。次に、取引先ごとに変えていた部分を、差し替えやすい形に整えます。
AIで見た目のパターンを作るのは簡単になったので、テンプレートには使い方の説明をつけます。どの順番で情報を載せればよいか、どんな文言を入れると問い合わせにつながりやすいか、といった制作者の判断を、記入例や手順書として添えます。
値段は、作るのにかかった時間ではなく、買った人がどれだけ手間を減らせるかで考えます。最初は付き合いのある取引先や同業の知り合いに有料モニターとして使ってもらい、どこで手が止まったかを聞いて手順書を直します。売れる前に直す点が見つかるので、公開後の問い合わせも減らしやすくなります。
テンプレートが向く人とつまずく点
テンプレートは、手離れのよさを重視する人に向いています。一度作れば、売れるたびに作業が発生するわけではありません。
つまずきやすいのは、買ってくれる人に届ける手段です。受託では取引先が向こうから依頼してくれましたが、テンプレートは自分で見つけてもらう必要があります。また、受託で作った成果物をそのまま流用すると、契約上の問題になることがあります。どこまで再利用してよいかの確認点は、受託の成果物を自社製品に使ってよいか|契約で確認する5つの点で整理しています。判断に迷う場合は、弁護士など専門家に確認してください。
道2 保守を定型サービスにする

2つ目の道は、公開後の更新や改善を、内容と料金を決めた月額の定型サービスにする方法です。
保守の定型化の始め方
今の保守契約で、毎月どんな作業が発生しているかを書き出します。文言の修正、画像の差し替え、お知らせの追加、表示の確認、数字の報告などです。そのうえで、毎月必ずやることと、別料金にすることを分け、メニューとして固定します。
作業そのものはAIで短くなっていくので、作業量で値段をつけるのは避けます。「毎月この数字を見て、この形で報告し、改善案を1つ出す」のように、作業量ではなく、取引先が受け取る結果で内容を決めると、作業が短くなっても値段を保ちやすくなります。
提案するときは、今の保守契約をいきなり置き換えるのではなく、「来月からこの形も選べます」と選択肢として出すと、取引先も比べやすくなります。何社かが切り替えてくれたら、その内容をそのまま新しい取引先向けのメニューにします。
保守の定型化が向く人とつまずく点
保守の定型化は、すでに複数の取引先と付き合いがある人に向いています。今の取引先にそのまま提案できるので、3つの道の中ではいちばん早く売上が立ちやすい道です。
つまずきやすいのは、「何でもやります」の保守に戻ってしまうことです。取引先から頼まれるたびに範囲外の作業を引き受けると、結局は時間を売る受託と変わらなくなります。範囲外の依頼は別の見積もりにする、と最初に決めておくことが大切です。
道3 SaaSとして仕組みを提供する

3つ目の道は、Web制作の中で繰り返していた作業を、取引先が自分で使えるツールにして月額で提供する方法です。
SaaSの始め方
いきなり大きなツールを作るのではなく、受託の中で何度も手作業でこなしていた1つの作業に絞ります。たとえば、毎回同じ手順で作っているページや、取引先が毎月自分で更新したがっている情報などです。その作業だけをこなす小さな試作を作り、既存の取引先に触ってもらいます。
AIを使えば、試作に必要なコードを以前より短い時間で用意しやすくなっています。大事なのは、作る前に「誰の、どんな手間を減らすか」を1文で言い切ることです。1文で言えないまま作り始めると、取引先ごとの要望を全部取り込もうとして、受託の案件と同じように機能が膨らんでいきます。一人や少人数で作れる領域の例は、マイクロSaaSのアイデア20選|一人で作れる領域と値付けを参考にしてください。
SaaSが向く人とつまずく点
SaaSは、自分の時間と売上を切り離したい人に向いています。使う人が増えても、作業が人数分増えるわけではありません。
一方で、3つの道の中では売上が立つまでいちばん時間がかかります。公開後の不具合対応、問い合わせ窓口、利用規約、AIを使う場合のAPI利用料の上限など、受託では取引先が持っていた責任を自分で持つことになります。公開前に確認する点は、AIで作ったプロダクトをリリースする前のチェックリスト|事業・技術・契約・運用にまとめています。
3つの道を選ぶ順番と、受託を減らしてよい目安

3つの道を、受託を続けながら進めるという前提で比べると、次のようになります。
- 保守の定型サービス:今の取引先にすぐ提案できる。売上が立つのが早いが、時間との切り離しは中くらい
- テンプレート:作れば手離れがよい。買う人に届ける手段を自分で持つ必要がある
- SaaS:時間と売上を最も切り離せる。売上が立つまで時間がかかり、運用の責任も大きい
迷ったら、今の取引先にいちばん早く提案できる道から選びます。最初の売上が早く立つほど、次の道に進むための時間とお金を確保できるからです。
受託を続けながら進めるなら、おすすめの順番は、保守の定型化、テンプレート、SaaSの順です。ただし、これは一例で、手元の材料によって入れ替えて構いません。
最初は保守の定型化で時間を浮かせる
まず保守を定型サービスにし、毎月の売上の一部を、時間に比例しない形に変えます。範囲を決めたことで浮いた時間と、AIで受託の作業を短くした時間を、週4時間などの自社の枠として先に押さえます。
次にテンプレートで「売る」経験を積む
保守で付き合いのある取引先や、同じ業種の知り合いに、テンプレートを有料モニターとして使ってもらいます。受託では営業や紹介が案件を運んでくれましたが、自社の商品は自分で売る必要があります。テンプレートを売る経験は、SaaSに進むときの練習になります。
最後にSaaSで仕組みにする
保守とテンプレートを続ける中で、取引先が「これを自分でできたらいいのに」と言った作業が、SaaSの種になります。動く試作を見せて反応を聞き、有料モニターの実績をもとに正規リリースへ進みます。
受託を減らすのは自社の売上が立ってから
ハコブネでは、受託から自社プロダクトへの移り方を4段階で考えています。受託だけの段階、受託+有料モニターの段階、正規リリースの段階、自社プロダクトが柱になった段階です。受託の比率は、ほぼ100%から9割、5〜7割、5割以下と下がっていくのが目安です。
大事なのは、受託を先に減らさないことです。自社の売上が立ってから、その分だけ受託を減らします。受託を減らす量は、意気込みではなく自社の売上で決めます。4段階の詳しい進み方は、脱受託はいきなり目指さない|受託→有料モニター→正規リリースの4段階で、時間と売上の比率の決め方は受託と自社プロダクトの両立|時間と売上の比率を決める目安で扱っています。
よくある質問5選

質問1Web制作の脱受託は、フリーランス1人でもできますか?
始められます。保守の定型化やテンプレートは、1人でも今の技術と取引先の範囲で始められます。SaaSは運用の負担が大きいので、先の2つで売上と時間を作ってから進めるのが現実的です。
質問2保守を定型サービスにすると、取引先が離れませんか?
内容を決めずに何でも引き受けていた保守を整理すると、範囲外の作業が別料金になるため、最初は戸惑う取引先もいます。毎月何を見て何を報告するかを先に示し、取引先が受け取るものを分かりやすくすると、話が通りやすくなります。
質問3受託で作ったデザインをテンプレートにしてよいですか?
契約によって変わります。権利の帰属、秘密保持、再利用の範囲を契約書で確認し、必要なら取引先の合意を取ってください。判断に迷う場合は、弁護士など専門家に相談することをおすすめします。
質問4SaaSを作るのに、どのくらいの時間がかかりますか?
作る範囲によって大きく変わるため、一概には言えません。最初は1つの作業だけをこなす試作に絞り、既存の取引先に触ってもらいながら機能を足していくと、作り込みすぎを防げます。
質問5どの時点で受託を減らせばよいですか?
自社の売上が安定して立ってからです。4段階の目安では、有料モニターの実績をもとに正規リリースした後、受託の比率を5〜7割へ下げていきます。比率はあくまで目安なので、生活費や固定費と照らして決めてください。
今の保守契約を書き出すところから始める
最初の一歩として、今の保守契約で毎月発生している作業を、取引先ごとに書き出してみてください。繰り返している作業が見えれば、定型サービスのメニューが作れますし、テンプレートやSaaSの種も見つかります。受託で身につけた技術と取引先との関係は、どの道を選んでもそのまま使えます。
ハコブネは、受託と自社の新規事業を並行してきた株式会社Walkersが運営する、受託業者のためのAI×事業開発コミュニティです。3つの道のどれから始めるか、受託の比率をどう下げるかを、同じ立場の仲間と相談しながら進められます。入会を前提にしない無料相談会もオンラインで開いていますので、自分の受託の棚卸しから話してみたい方はお気軽にご参加ください。
この記事で触れた事例の出典
最終更新:2026年10月21日
